タジートとタチャーナ・ラーリナ : プーシキンの作品にみる人間形成の比較
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概要
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人間心理の優れた洞察力の持ち主であるプーシキンは、成長期における人間形成のプロセスに深い関心を抱いている。彼の作品と草稿には、主人公の家庭環境や生育歴に関する叙述とエピソードが少なからず存在しており、それぞれが、作者の教育思想の一端の現れであり、主人公の将来の人格と運命への示唆、他の作家の作品へのレミニッセンスなど奥深い背景を宿している。本稿では、まず、『タジート』の主人公タジートと『オネーギン』の女主人公タチヤーナが家族及び共同体から切り離された孤独と疎外感の中で登場し、しかも、そのことが同じ比喩 -「家族の中の他人」、「人間集団の中の動物」- で表されている共通点を指摘する。さらに、タチヤーナが成育環境において親の影響から遠ざけられることにより、貴族の娘の標準的な成長プロセスを辿っていないことを明らかにする。これらの考察にもとづいて、人間尊厳の根幹である個性は社会規範や制約から解放された自由と主体性の中で生まれるというプーシキンの特微的な思想を、両主人公の人間形成の背後に読み取ってみたい。最後に、タジートの生い立ちに里子制度が適用されていることの意味について、親の影響力の排除という観点から新しい解釈を提供する。
- 1999-03-31
著者
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