地質学的および地球物理学的特徴に基づく西南日本外帯の地殼断面
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概要
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西南日本外帯は,従来,三波川帯・秩父累帯・四万十帯に分けられてきた。しかし,層相・構造上の特徴に基づくと,むしろ,それは黒瀬川構造帯を境界とする南・北2領域に分けることが出来る。黒瀬川構造帯以北の,三波川帯および秩父累帯北帯からなる領域では,堆積体が形成された後に,より古期の横臥褶曲や低角衝上断層といった低角度の構造形成を特徴とする造構運動が進行し,ナップやスラスト・シートが北から南へ移動した。その後に,より新期の開いた正立褶曲を形成する造構運動が領域全体に進行している。それに対して,黒瀬川構造帯以南の,秩父累帯中・南帯および四万十帯からなる領域には,特徴的にテクトニック・メランジを含む地質体(付加体)が存在し,全体に高角で北斜する構造をもつ覆瓦構造を形成している。そして,そのような構造形成も基本的には,地質体形成時に進行したとみなされる。地質学的特徴を異にする領域の境界に位置する黒瀬川構造帯は,現在は,蛇紋岩メランジ帯を形成している。一方,西南日本外帯の地殻およびマントル最上部の構造や震源分布にも,黒瀬川構造帯付近を境界とする特徴の差異が存在する。すなわち,黒瀬川構造帯付近以北の領域の地殻は,花崗岩質層および玄武岩質層からなる成熟した大陸性のそれであるのに対して,黒瀬川構造帯付近以南の領域には, 大陸性の玄武岩質層は存在せず,深さ23kmあたりまで上昇しているマントルと,P波速度6.1-6.2 km/secの層が直接する。この速度層は,付加体物質の高変成部とそれらの部分溶融によって生じた花崗岩質岩石からなると推定される。従って,大陸と海洋の構造境界は黒瀬川構造帯付近に存在することになる。黒瀬川構造帯下には,顕著な震源分布の空白地帯が北へ急斜する形で存在している。しかも,構造帯以北の地殻内地震は浅いものが特徴的で,その下限の深さは約12 kmであるのに対して,構造帯以南のそれは20-22 kmと,黒瀬川構造帯を境として10 km近い喰い違いが存在する。以上のような点から, 黒瀬川構造帯は, 造構発展過程を異にする領域の縫合部に位置するばかりでなく,そこを境にして,地殻構造も大きく変化する重要な境界部分として,地下深所へ延びている可能性が指摘される。このような事実に基づいて,西南日本外帯の地殻断面を考察した。
著者
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波田 重煕
高知大・大
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木村 昌三
高知大学理学部高知地震観測所
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岡野 健之助
高知大学(名誉教授)
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木村 昌三
高知大学理学部附属高知地震観測所
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波田 重煕
Department of Geology, Faculty of Science, Kochi University
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鈴木 尭士
Department of Geology, Faculty of Science, Kochi University
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岡野 健之助
Department of Physics, Faculty of Science, Kochi University
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木村 昌三
Kochi Earthquake Observatory, Faculty of Science, Kochi University
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鈴木 堯士
高知大・理
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鈴木 尭士
高知大学・理
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