デ・フィリッポ劇における登場人物と疎外 : 『ナポリ百万長者!』のジェンナーロの場合
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概要
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30年代の後半から50年代の半ば頃まで、エドゥアルドの劇作には、ほとんど常に彼自身が演じつづけた、劇中では主人公とも呼べるほど重要な位置を占めていた、一連の登場人物が活躍する。彼らは、周囲の人物、つまり他の登場人物との間でコミュニケーションの齟齬を来たし、孤立化し、現実或いは現況を直視することができず、場の雰囲気を読めないことから調子はずれの言動を繰り返す。彼らの多くは寝取られ亭主であり(『誰がおれより幸せか!』『この幽霊たち!』『新しい服』『大魔術』ほか)また何かを試みて失敗する(『お前には払わん!』『フィルメーナ・マルトラーノ』『私の家族』ほか)など、行動を主体とした現実に欺かれることが多い。ナポリの小市民階級を中心としながらも、実際には社会階層は様々であり、パーソナリティの強さも一様ではないが、この周囲から疎外されがちな一連の人物は、断固とした決意を取れず優柔不断であり、人の良さは窺えながらも人間嫌いであり、饒舌ではあるが的を得ない等の曖昧さにおいて、概ね一致している。当研究では、この「エドゥアルド的登場人物」のある種の典型であり、その活躍期間の中期に位置している『ナポリ百万長者!』のジェンナーロ・ヨーヴィネの疎外状況の分析を通して、エドゥアルド劇世界の理解の一助としたい。
- イタリア学会の論文
- 2000-10-20