メタスタジオのオペラセリア : 絶対王政下のユートピア
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概要
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メタスタジオはその生涯において27のオペラセリアを書いているが、そこに一貫して現れる主題は「義務と愛情の相克」である。物語の骨組みを単純化すると次のようになる。美しく気立ての良い男性Mと女性Fは互いに愛し合っているが、社会的な障害のために結婚できないでいる。一方で男性Mは男性mと社会的な義務という関係で結ばれている。mにはfという恋人がいる。ところが何らかの手違いでmがFに横恋慕してしまう。そこでMは義務と愛情の狭間で苦悩する。すると結末で何らかのどんでん返しが起こってMとF、mとfはめでたく元のさやに収まるのである。若い二組の男女が繰り広げる恋愛事件と出生の秘密の露顕による大団円。これはメタスタジオ以前にもしばしば使われていたテーマである。ではなぜメタスタジオはこのいわば使い古された筋立てを用いて18世紀最大の詩人になることができたのであろうか。単に言葉の使い方が巧みであったからなのか。あるいはしばしば言われるように舞台そして音楽について天性の勘を持ち合わせていたからなのか。たしかにそのような特徴も18世紀におけるメタスタジオの人気を支えた要素のひとつであったに違いない。しかしメタスタジオを語る時にその物語の内容を無視することはできないだろう。この論文では、メタスタジオの創作力が頂点に達した1732年から1734年にかけて書かれた四つの作品、『シリアのハドリアヌス』『オリンピアデ』『デモフォンテ』『ティトゥスの寛容』を取り上げて特にその道徳のありかたを軸にして考察し、そしてなぜそれが当時の観客の共感を得たのかを明らかにする。
- 1995-10-20