ゴルドーニ「避暑三部作」の構成
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概要
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カルロ・ゴルドーニは、1761年に「避暑狂い」Le smanie per la villeggiatura[以下Sと略]、「避暑のアヴァンチュール」Le avventure della villeggiatura[以下Aと略]、「避暑よりの帰還」Il ritorno dalla villeggiatura[以下Rと略]を書き下ろし、短い間隔をおいてヴェネツィアで上演している。この三作品は、同一の登場人物達に一よって繰り広げられる連続した出来事を描き、「避暑」という同一のテーマを扱っているために、「避暑三部作」Trilogia della villeggiaturaと総称されるのは周知の通りである。当初の興行成績は必ずしも芳しいものではなかったが、近年、三作を一挙に上演、解釈する試みが複数の劇団によってなされ、数多のゴルドーニ劇の中でも比較的注目されることの多い戯曲となった。また、1761年といえば、ゴルドーニがヴェネツィアを去ってパリに赴く前年であり、これも代表作の中に数えられる「キオッジャの立て引き」Le baruffe chiozzotte、「謝肉祭の最後の一夕」Una delle ultime seredi carnovale、に先行する作品として、劇作家の円熟の技を示すものと考えられている。「避暑三部作」に対する興味は、主に以下の三点にある。1、「三部作」としての戯曲構成。2、女主人公ジャチンタの性格描写。3、作者の社会風俗批判。この中で、2はゴルドーニ劇の特徴を示す最も重要な要素の一つである「性格喜劇」の代表例として、また当時の社会における女性の在り方を捉える作者の視点の顕著な表出として多く論じられ、3はまた、ゴルドーニの全作品に様々な形をとって現れる主題の一端であるとともに、同時代の作家パリーニの「一日」に代表される啓蒙主義的な文芸思潮の視点からも重要な意味を持つ。しかしながら、本文やそれに付随した作者の言葉を丹念に読むと、内在する主題のみならず、むしろそれ以上に「三部作」としての構成や作劇上の工夫に寄せる意気込みや自信が感じられる。このことは、作品の文学的解釈と不可分であるばかりでなく、数多いゴルドーニの戯曲の発展、成熟の流れを考える上でも重要である。本論では、一つには先に挙げた2、3、の論点に対する考察の前提として、また一つには、座付作者としてのゴルドーニの作劇術の一端を垣間見るために、テキストに即して、構成に関する作者の意図とその実現、関連する他の作品との比較、三部作全体の提示する作劇上の意味について考察する。
- イタリア学会の論文
- 1989-10-20