ナタリア・ギンヅブルグ : Lessico familiare に至る作家の軌跡
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概要
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現代イタリアの代表的女性作家の一人であるナタリア・ギンヅブルグの創作活動はおよそ三つの時期に分けることが出来る。すなわち<male di vivere>と呼び得る人間存在の孤独と苦悩を主題とし、強い虚構の中で綿密にストーリーを組み立てていく第一期(Casa al mare, La madre 等の短編、E stato cosi, Valentino Saggittario 等の中編)、自己の記憶をたぐり寄せながら、ひとつの時代とその時代を生きた人々の群像を描く第二期(この傾向は初期 La strada che va in citta に現われ、後に Tutti i nostri ieri を経て Le voci della sera, Lessico familiare に至って完成される。)第二期の会話を主体とした描写を更に発展させた結果と思われる一連の劇作から成る第三期である。第一期、第二期の各々の傾向の出現には若干の時間的交錯がみられるが、ギンヅブルグの文学的歩みの段階に従って「第一期」「第二期」としておく。第一期の<虚構の世界>から第二期の<過去の日常><puramemoria>の世界への変遷を、現代イタリアの評者達はおおむね<飛躍><発展>として評価する。特に第二期の Lessico familiare は一九六三年ストレーガ賞を受賞し、ギンヅブルグについての批評も多くはこの作品に集中している。評者の中にはこれを「家族と友人達の私的思い出に過ぎない。」とする否定的見解も存在している。しかし大方の意見は Lessico familiare を彼女の代表作と位置づけ、「彼女の文学的歩みに於いて最も高みにある表現」として、この<飛躍>を評価している。しかしギンヅブルグの作品を考察するにあたって極めて重要な意味を持つと思われるこの<飛躍>の根拠をめぐる論議は、ほとんど為されていないのが現状である。 Lessico familiare を産み出すに至ったこの<飛躍>の根拠は何か。彼女の創作活動の背景を探り、その根拠を明らかにするのが本稿の目的である。
- 1980-03-10
著者
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