イタリア初期ヒューマニズムの教育思想 : パルミエーリの『市民生活論』を中心に
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概要
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十五世紀にはいるとイタリアでは、ヴェルジェーリオの『青少年の美徳と自由研究について』をはじめとして、たくさんの教育書が著わされる。しかも、この時期のイタリアに氾濫しているさまざまな形式の論文は、とくに教育書と銘打たれていなくても、ほとんどすべて、多かれ少なかれ教育の問題を論じている。これらの著作をも考慮すると、教育の問題を論じた作品は、さらにおびただしい数にのぼるであろう。教育への関心は、すべての人びとを強くとらえていたようにみえる。しかしこれは時代の必然だったともいえよう。ブルクハルトによって「世界と人間との発見」として特質づけられたルネサンスにおいては、いっさいの関心が人間へとふりむけられる。しかもこの人間は、宗教的救済の対象たる「霊魂としての人間」ではなく、この世界のなかで生まれ死んでいく現実的人間であった。「永遠の相下に」眺められた人間ではなく、歴史的時間のなかで自己自身と自己の運命とを創造していく「自己形成的」人間であった。したがって人間への関心は、じつはまた人間形成への関心、教育への関心とならざるをえなかったのである。ルネサンスにおける「自己形成的」人間像の誕生は、一つの画期的事件だったといえよう。ルネサンス期に、一方では教育問題を論じた著作が、他方では伝記や自叙伝がおびただしく著わされたのは、「世界と人間との発見」の当然の帰結だったのである。本稿は、ルネサンス思想の重要な一局面をなす教育思想を、パルミエーリの『市民生活論』を中心に考察しようとするものである。イタリア・ルネサンス文化の創造において中心的役割をはたした都市はフィレンツェであったが、このフィレンツェのヒューマニズム文化は、十五世紀中葉を境に大きく変質していく。しかしヒューマニズムの本来的かつ典型的な姿は、初期ヒューマニズムにおいて最もよく示されていると思われる。フィレンツェ初期ヒューマニズムの代表的著作の一つ『市民生活論』をとりあげて、ヒューマニズムの教育思想を考察することの意義もまた、この点にみいだされるであろう。
- 1975-03-20
著者
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