受動化と使役化における格役割の動的配分
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概要
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話者が自分の心の中や外界を見る場合,そこには事物とそれらの状態,時間と空間が認識される.事物が相互にかかわり合うことによって生起する事態を因果関係として捉え,それを述語によって言語化する過程がある.各事物の事態の中での意味役割は,日本語の場合は格助詞が担うが,日本語文の意味を因果性の観点から観察すると,格助詞がプロトタイプ的な意味役割から逸脱した用例を持っている場合が多い.格助詞はそれが付与される名詞と述語間の文法関係をどのような状況認知に基づいて表現しているのだろうか.ここでは,因果関係に基づき格役割を初期設定する空間があって,受動化・使役化のような認知方式を変更する操作は因果関係を保存しながらその空間上で事物を再配置すると考える.格助詞の形式上の差異は,同一あるいは類似の事態を話者が異なった認知的角度から見ていることに起因する.本稿ではこのような因果空間上で受動化・使役化を行うことによって名詞の格役割が動的に決定されることを示す.特に,ガ格の動作主性,ニ格の源泉性の程度が受動化・使役化と述語の性質に依存していることを示すことよって一見多様な任務を帯びているとみられる格助詞の働きがどのようにして付与されるかの一端を明らかにする.
- 一般社団法人情報処理学会の論文
- 1995-05-25