M^3K : 拡張可能なマイクロカーネル

概要

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これまでのオペレーティングシステムカーネルは,固定されたアブストラクションをユーザに提供してきた.例えばUNIXでは,実行制御のアブストラクションとしてプロセスを提供し,実行に必要な資源管理はプロセスを単位として行なっている.マイクロカーネルを基にしたアーキテクチャでは,オペレーティングシステムの持つパーソナリティをカーネルの外に出し,様々なパーソナリティを受け入れることができるようにしている.そのためにさらに細かい制御を可能にしているが,固定されたアブストラクションを提供していることには変わりない.例えばMachでは,資源管理の単位であるタスク内に,複数の実行制御の単位であるスレッドが存在することを許している.しかし,これらはカーネルによって提供される固定されたアブストラクションである.カーネルの提供するアブストラクションを制御するポリシーは,ユーザの持つ要求の最大公約数的なものである.これまでのTSS環境において,テキストデータを処理する上では,一つの決まったポリシーにより資源を公平に共有することが有効であった.近年のハードウェアの進歩により,汎用のワークステーションにおいても,並列アプリケーションが実行されたり,マルチメディア処理が行なわれるようになってきた.これらのアプリケーションを対象とした時,従来のTSS環境を前提として固定されたポリシーは必ずしも有効でなくなってしまう.並列アプリケーションは,それを実行するスレッドのスケジューリングを,コンパイラの解析結果に従って細かく制御できることが望ましい.しかし,スレッドがカーネルによって提供されるような場合は,それが不可能になってしまう.それを避けるために,アプリケーション内でスレッドを実現するユーザレベルスレッドやファーストクラスユーザレベルスレッドが開発されている.マルチメディア環境において取り扱うデータは,サイズの大きさと時間的な制約を特徴として持つ.これらの特徴は,TSS環境とはかなり異なった資源管理ポリシーを要求する.例えば,一般的に仮想記憶において新たに物理メモリページが必要となった場合,LRUアルゴリズムに従って最近最も使われていないページを再利用しようとする.しかし,マルチメディアデータの場合は,ある時間を過ぎたデータは意味を持たなくなってしまっているため,LRUとは違ったポリシーによって管理される必要が出てくる.以上のように,これから重要性がさらに増してくるアプリケーションをサポートするには,固定されたアブストラクション,ポリシーのみをサポートしたカーネルでは不十分である.アプリケーション自身が資源管理に必要なポリシーや機能をカーネルに提供し,カーネルはそれに従って資源管理を行なえば,そのアプリケーションに適した実行環境を作ることができ,より効率良い実行が可能になる.我々は,アプリケーション毎に適した実行環境を構築することを可能にする拡張可能なマイクロカーネルM^3Kを提案し,必要なメカニズムの構築,実装を行なう.本論文では,機能拡張を可能にするM^3Kのアーキテクチャについて述べる.
一般社団法人情報処理学会の論文
1995-03-15

M^3K : 拡張可能なマイクロカーネル

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