近世中期出雲方言の大きさを表す語彙
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概要
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元文元年(1736)作成の出雲国郡別絵図註書帳六冊は,郡役所の註書原案と松江藩の改定案を備える。本資料に現れた物の大きさを表す語彙を調べると,次のような特色が見られる。なお,(原)は原案,(改)は改定案を表す。相対的な〈大〉を表す語は「大きなり」3例,「ふとし」9例である。(原)川に居申候。長さ四五寸位より大キ成ハ無御座候。(大なきり,魚)(改)羽色は青黒く,足は黄色,大サ雀より少ふとく御座候。(嶋のせんとう,鳥)(原)磯辺に居申候。長さ四五寸位よりふとくは相成不申候。(ひこちや,魚)本資料の「ふとし」は〈大〉だけでなくより上位の意味概念も表し,現代語「大きい」に該当する。漢字表記「大さ・大く」も「ふとさ・ふとく」と訓むべきものである。相対的な〈小〉は「ちいさし・ほそし・こまかなり」で表され,用例も多い。(改)惣身の色薄黒く,雀より少ちいさき鳥ニて御座候。(むさゝび,鳥)(改)冬より春の頃迄,森木の内ニ住。雀よりも細く御座候。(ぬか鳥,鳥類)(原)茶の木に似て,(略)茶の葉より細かなり。尤細か成る白き花付。(しぶき,木類)(改)九月の頃深山ニ生し,大キ成分ハ,笠の廻り六七寸(略)細き分ハ,笠の廻り壱寸弐三歩(略)(萩茸,菌)最後例は「ほそし」が「大キ成分」と対比的に使用された端的な例である。「こまかなり」は用例から見て,〈小〉の下位の意味領域を担っていたと思われる。本資料の大きさを表す語彙は,〈大〉を表す「ふとし」,および〈小〉を表す「ほそし」の存在を特色として指摘できる。これを『日本言語地図』と比較すると,「ふとし」はオーケナ・オッケナに駆逐されて消え,「ほそい」はホシェとして残っている。郡別絵図註書帳における大きさを表す語彙は,言語地図の解釈に寄与するだけでなく,「細し」の語史解明の必要性も考えさせる。
- 2001-09-29
著者
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