『古今和歌集声点本』における対格助詞「を」の声点の音調としての解釈について
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概要
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『古今和歌集声点本』における鎌倉期の資料(秋永1972,1974)では,対格助詞「を」の声点は,高の他に低である用例が少なからずみられる。当発表では,同資料中の「を」につけられた声点を語のアクセントではなく,音調として解釈することを提案した。次の規則1,2は,同資料中の和歌の句中の「を」の音調の原則を記述したものである(句末の「を」については別の規則を設けたが,ここでは省略する)。規則1 句の途中に「を」が現れる場合,前後のモーラがいずれもH(高)である場合,「を」もHでなければならない。規則2 句の途中に「を」が現れる場合,前後のモーラのどちらか一つがHで,他の一つがLである場合,「を」はL(低)でなければならない。対格助詞「を」の声点が語内部のアクセントを表すと考える必要はない。Pierrehumbert&Beckman(1986,1988)の理論によれば,Hは語内部のアクセントによるものと語が形成するアクセント句(accentual phrase)によるものとがある。同資料中の言語では,Hの「を」は後者の場合である。つまり,アクセント句の形成によってその音調がHとなったものと分析することができる。また,アクセントの直後にはLが与えられる。したがって,「を」が有アクセントの語とアクセント句を形成すると,「を」の音調は直前の語のアクセントによってLとなると分析することができる。このように,同資料中の「を」の声点は,語内部のアクセントを表すのではなく,語以上の階層の音韻論的単位であるアクセント句から与えられる音調として解釈される。鎌倉期の『古今和歌集声点本』における言語では,「を」は直前の語とアクセント句を形成したり,また単独でアクセント句を形成することができたと考えられる。「を」の音調はアクセント句の形成で変化するので,上述の規則はアクセント句の形成に関する制約として働くものである。
- 日本語学会の論文
- 2001-03-31
日本語学会 | 論文
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