精進湖に出現したPectinatella magnifica
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1972年秋,富士川胡の一つ,河口湖に,従来,北アメリカ東部と中央ヨーロッパでしか記録されていなかった炭水産コケムシpectinatella magnifica(LEIDY)の群体塊が出現した(MAWATARI, 1973)。ところが1973年には富士五湖の他の一つ,精進湖にもこの群体塊が多数出現した。9月初め岸辺の水中の岩・に大小様々の群体塊が毬(まり)状に発達し,分泌した寒天質塊の表面を多数の群体が多角模様をなしておおっていた。大きな群体塊は岩から剥れて分厚い円盤状(直径約60 cm)となって水面に浮上していた。11月初めには岩に囲まれた静かな水面に畳一畳ほどもあるけ大な群体塊となって浮いていた。長さでは2.8mに達する細長いものもあった。個々のポリプ体は1.5mmほどで,(Cristatella mucedo CUVIER(アユミコケムシ)を思わせる。口上突起と目の周辺に赤い色素があるのはこの種の著しい特徴である。触手冠の両腕の先端部および包体の肛門側に乳白色の塊があるが,これらはKRAEPELIN(1887)がいう上皮線(epidermal gland)からの分泌物である。スタトブラストは丸味を帯びた角形で,長径は約1mm,川縁部から錨形をした軸が11〜22本伸びでている。群体から放出されたスタトブラストは必ず水面に浮上し,数週間は寒天質層に包されている。精進湖は冬期結氷するが,越冬し水面に浮遊するスタトブラストは,現地で,5月下旬に発芽していた。8月に幼生が出現した。幼生は卵形で直径1〜2mm, 1〜5個の芽を有するが,通常は4個。外分の表面にある繊毛の運動で,芽のある方を下にして,数時間浮遊した後,ものに付着して変態した。このコケムシの群体塊がボール状に発達し,しかも表面が個々の群体によって多角模様をなしていることから和名として"オオマリコケムジ"という名称を提案したい。 今まで日本にいなかったこのコケムシが河口湖や精進湖に突如出現するようになった原因はまだ判明していない。国際的に人や物資の交流が盛んになった今日,偶然の機会に,ものに付着したスタトブラストがこれらの湖に持たらされたのであろう。また渡り鳥によるスタトブラストの"空輸"も考慮されよう。1974年の夏には石川県の柴山潟にもこの群体塊が多量に出現した。今後,このコケムシの分布の推移に注目しておかなければならない。(第10回動物分類学今大会にて講演)
- 日本動物分類学会の論文
- 1974-12-14
著者
関連論文
- スタトブラストの光周性(生理)
- 桂離宮のカンテンコケムシ
- 24. 映画「湖沼のオオマリコケムシ」について(動物分類学会第22回大会記事)
- TS27 オオマリコケムシの分布の推移.
- 16. 桂離宮に出現したカンテンコケムシ(動物分類学会第20回大会記事)
- オオマリコケムシ虫体の奇形(発生学)
- 14. 雄蛇ケ池のオオマリコケムシ(動物分類学会第18回大会)
- オオマリコケムシ体芽の休眠からの覚醒(発生学)
- 雄蛇ケ池のオジャッシ-それはオオマリコケムシ
- 日本産Urnatellaについて(分類学・系統学)
- 有棘性苔虫休芽の表面微細横造(発生学)
- カンテンコケムシにおける有性生殖
- 4.高等掩喉類におけるスタトブラストの表面微細構造(動物分類学会第16回大会講演要旨)
- 苔虫休芽の海水に対する抵抗性(分類・系統学)
- 3.千葉に出現したUrnatella(動物分類学会第15回大会講演要旨)
- "苔虫学"の現況(日本動物分類学会シンポジウム)
- 苔虫休芽における化学静止(発生学)
- 精進湖におけるコケムシ類
- スタトブラストの被膜と寒天質層(発生学)
- 12.オオマリコケムシの群体塊形成(動物分類学会第12回大会講演要旨)
- オオマリコケムシの生活史(分類・系統学)
- Pectinatella magnificaスタトブラストの発芽(発生学)
- 精進湖に出現したPectinatella magnifica
- 14.精進湖に出現した淡水コケムシPectinatella magnifica(動物分類学会第10回大会講演要旨)
- スタトブラストの発芽における光依存性(発生)
- Buddenbrockiaについての問題点
- 国際苔虫学会第2回国際会議ダラムで開催
- コケムシの高次分類群としての名称
- スタトブラストの表面構造(発生)
- 飼育群体に形成されたスタトプラストの発芽(遺伝・発生・細胞)
- 映画"Tiny Pond Animals"への招待
- カンテンコケムシの有性生殖(発生)
- 苔虫類の虫体における重複の型(実験形態)
- 淡水コケムシにおける虫体の寿命と温度(実験形態・発生)
- ヒメテンコケムシ群体で発見されたBuddenbrockia(分類・形態・原虫)