遺伝子医療の到来 : ヒトゲノム情報と21世紀の産科婦人科診療
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概要
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1953年Watson and CrickはDNAの二重らせん構造を提唱した.1965年代には遺伝子hunterの時代に突入し遺伝病と遺伝子変異との関係が明らかにされた.1970年からはヒトゲノム解析計画が開始されゲノムの一次構造のドラフト・シークエンスが2000年に公表された.このような時代背景からヒトの疾患をゲノムという視点で捉える体勢が整ってきた.遺伝病は4種類,染色体異常症,単一遺伝子病,多因子疾患と,癌などの体細胞遺伝疾患に分けられる.1.染色体異常症 染色体異常症は,数的異常,構造異常の結果起こる疾患で各染色体には数百から数千の遺伝子が座位している.異常の多くは自然流産として淘汰される.染色体異常の出生前診断では,光顕的に可視的な異常のみならず判別不能な微細な異常の診断を要求されることがあり,telomere FISHやSKY法が有用となった.FISH法では同期細胞における染色体分析が可能で精子や初期胚の染色体分析にも応用できる.2.単一遺伝子病 単一遺伝子病の中で責任遺伝子が判明している疾患は3,000程度である.遺伝子hunterの時代は21世紀になっても終わっていない.多くの単一遺伝子病で遺伝子解析が行われ,病気の重症度や予後との関係が精力的に解明された.これらMendelの遺伝法則に従う単一遺伝子病から,Mendelの法則では説明できない3塩基反覆配列伸長型遺伝病まで出生前診断の対象となっている.3.多因子疾患 複数の疾患感受性遺伝子と環境因子との相互作用で発症する疾患を多因子疾患と定義されている.多因子疾患には高血圧・糖尿病などの生活習慣病が代表的である.これらの疾患は頻度が高いばかりでなく慢性化することが多いため医療全体からみても最も解明が待たれている.現在,多因子疾患の遺伝的背景の解明に向け各個人の1塩基置換による遺伝子多型(SNP)を体系的に収集し正常群と疾患群を比較することが盛んに行われており,我々も妊娠中毒症とダウン症の再発についてSNP解析をした.4.体細胞遺伝疾患 通常の遺伝病における遺伝子型は性腺細胞を含む体細胞すべて共通で,次世代に受け継がれる.しかし癌は遺伝子変異を基盤に発症する疾患であるが,癌細胞のみに変異が発現しているものと,家族性腫瘍のように性腺細胞にも変異が認められ変異をもつ個体のすべての細胞がMendel遺伝に従う遺伝子変異を一方の対立遺伝子に認め優性遺伝するものがある.婦人科腫瘍のうち卵巣癌とBRCA1遺伝子との関連は知られており,日本人における卵巣癌と本遺伝子について分析した.また,卵巣癌組織標本スライド上,FISH法でBRCA1の発現と予後との関係について検討した.一方,最近,HPV感染と子宮頸癌発生機序が明らかになってきた.そこで,HPV DNAマイクロチップ法により十代女性におけるHPV感染陽性率について調査した.5.ヒトゲノム情報と遺伝病研究の将来 現在,最も精力的に研究されているのはSNPなど個人の遺伝情報を基にして生活習慣病の発症リスクを算定し,効率的な予防や治療を行うものと癌治療における癌感受性遺伝子型を基調とした抗癌剤の組み合わせによる「オーダーメイドの医療」の戦略であろう.
- 2003-08-01
著者
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