メタロチオネイン遺伝子欠損細胞におけるカドミウム毒性に対する防禦機能
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概要
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メタロチオネイン(MT)は構成アミノ酸の1/3がシステインからなり,金属に対して非常に親和性が高い蛋白質である.妊娠時には胎盤で合成され,銅や亜鉛などの必須金属の母体から胎児への輸送に関与する.一方では,カドミウムや水銀など有害重金属の曝露から胎児を防禦する働きも担っている.本研究ではカドミウムに対する防禦機構におけるMTとストレス蛋白質(HSP)およびグルタチオン(GSH)の相互作用について検討した.実験にはMT遺伝子が欠損しているノックアウトマウスから線維芽細胞株(MT-KO2)を独自に樹立して用いた.同時に正常マウスからも線維芽細胞株(MT-W3)を樹立した.この2細胞株の培養液に塩化カドミウム(CdCl_2)を添加すると,MT-W3細胞ではCdCl_2の濃度依存的にMT遺伝子(MT-I)の発現が増加するのに対して,MT-KO2細胞ではMT-I遺伝子の発現が全く認められなかった.この2細胞株のCdl_2に対する細胞生存率を比較してみるとほとんど有意な相違はなかった.そこでこれらの2細胞株でのストレス蛋白質Hsp32とGrp78の遺伝子発現を調べた.CdCl_2投与に対して両細胞株ともHsp32とGrp78の遺伝子発現は濃度依存的に増加した.Hsp32遺伝子発現の増加の程度は,MT-W3細胞に比べてMT遺伝子が欠損しているMT-KO2細胞の方が明らかに大きかったが,Grp78はMT-KO2細胞の方で若干の増加を認めた.さらにこの2細胞株の細胞内GSHを定量すると,無処理下では両細胞内での有意な差は認めなかった.CdCl_2を培養液に添加すると細胞内GSHは無処理下に比べMT-W3細胞では約1.2倍,MT-KO2細胞では約1.8倍の増加を示した.以上の結果より,細胞内でMTはカドミウムに対し防禦因子として重要な働きをしているが,MTが欠損した場合にはHSP32やGSHなどが代償的に防禦に関与していることが示唆された.
- 社団法人日本産科婦人科学会の論文
- 2002-11-01
著者
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