一粒系コムギにおけるモチ性胚乳デンプン突然変異
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概要
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イネ科穀類の種子胚乳デンプンは通常はウルチ性であるが,イネ,オオムギ, トウモロコシ等の7種にはさらにモチ性品種が存在する.しかしコムギ属(Triticum)にはモチ性デンプンを持つ品種,あるいは突然変異系統の報告は未だされていない.我々は二倍性コムギである一粒系コムギ(Triticum monococcum L.)にEMSによる人為突然変異を誘発し,その後代からモチ性変異株を得ようと試みた.EMS処理は室温で予備吸水20時間の後,濃度0.4%(v/v)で24時間行った。処理後発芽した幼苗を畑に移植して栽培,収穫した.処理を行った400粒の発芽率は42.0%で,その後生存し種子をつけた植物は,処理した種子の14.7%であった.また着粒した穂数及び種子粒数は198穂,2,016粒でそれらの穂の中央部約15の第一小花における種子稔性は42.6%であった(Table1).これらの結果は,M_1幼苗移植が遅れ冬がきびしかったことを考慮しても,今回のEMS処理がT.monococcumにはきつかったことを示していると思われる.得られた種子は胚を含まない半粒部をつぶしてKI-I_2溶液を滴下し顕微鏡下で胚乳デンプンの色を観察した.その結果,2穂からの10粒のうち6粒の胚乳デンプンが赤褐色に染まった(Table2,Fi9.1a).他の粒は総て青紫色であった(Fig.1b).このことから胚乳デンプンがKI-I_2溶液で赤褐色に染まるM_2種子はモチ性の突然変異であると思われる.これらの種子はイネで見られるような胚乳部の透過程度の違いや,オオムギモチ種のように種皮がアントシアニンで紫色になることはなく,外観上は通常のウルチ性T.monococcum種子と変わらなかった(Fig.2).またデンプン粒の大きさ形状でも正常な一粒系コムギとの間に違いはみられなかった.さらに他の2穂からの2粒は,胚乳デンプンが赤紫色に染まった、これらはモチ遺伝子に関する異型接合体か或は"低アミロース","ダル"のような突然変異かも知れないが今後の分析が必要である.これらの胚乳突然変異と思われるM_2種子をつけたM_1穂の種子稔性は5.9〜33.3%で,M_1の平均42.6%より低く,EMSによる障害を強く受けた細胞から出現したと思われる.M_1植物が開花したとき,各個体からの穂の花粉をKI-I_2溶液で染めて観察した.4個体からの6穂の葯の花粉の一部が赤褐色に染まった、しかLそれらから得られたM_2種子の胚乳デンプンはすべてウルチであった.得られたモチ性突然変異については現在後代を育成中であり,今後さらに遺伝的分析を行う予定である.
- 日本育種学会の論文
- 1988-12-01
著者
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