オオムギと野生種H. bulbosumの雑種における体細胞分裂時の染色体消失と蛋白合成能
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概要
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オオムギとその野生種H. bulbosumの雑種では,染色体の消失が生じる.染色体の消失は,穂原基細胞で高頻度で生じるのに対し,根端分裂細胞ではほとんど生じない.このことは,染色体消失が細胞の生理的状態によって影響されることを示唆している.また,体細胞核分裂の観察により,消失する染色体は,細胞分裂中期に赤道板に集まれず,末期に遅滞染色体として核分裂より取り残されることが観察されており,細胞分裂前期における染色体と紡錘糸との相互作用の異常が染色体消失に関係していると推定される.今回,オオムギ,H. bulbosum,およびその雑種の根端細胞に,RNAの合成阻害するCordycepin(10^-5M),蛋白合成を阻害するCyc1oheximide(10^-5M),紡錘糸形成を阻害するColchicine(0.1%)を30分処理し,染色体消失とRNA合成,蛋白合成,紡錘糸形成の関係を明らかにしようとした.Colcbicineはどの植物の根端細胞にもC-metaphaseを増加させ,紡錘糸形成を阻害することを示したが,染色体消失の原因となる分裂末期の遅滞染色体を誘導しなかった.このことは,雑種に見られる染色体消失の機構は,紡錘糸形成の機構と関係しないことを示した.一方,CordycepinやCycloheximideはC-metaphaseを増加させると共に,雑種の根端細胞のみに遅滞染色体を誘起した.最もよく遅滞染色体が観察されたのは,CordycepinやCycloheximideの処理開始後90分であることから,細胞分裂のG2あるいは前期におけるRNAや蛋白合成の抑制が染色体消失と関係していると推定される.また,雑種においてのみ遅滞染色体が観察されたことは,雑種のG2あるいは前期におけるRNAや蛋白合成が,オオムギやH. bulbosumに比べて抑制されている可能性がある.次に活性のある動原体を染色すると報告されているCd分染法を改良し,雑種の穂原基細胞で見られる遅滞染色体をCb染色した.正常に分裂している染色体と遅滞染色体の動原体の両方に,dot状の染色が見られた.このことは,消失する染色体の動原体は正常であるか,Cd染色法の改良が,動原体の活性を反映しなくなった可能性がある.
- 日本育種学会の論文
- 1990-09-01
著者
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