非対称細胞融合によるタバコ品種つくば1号の細胞質雄性不稔系統の作出
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概要
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一代雑種育種に使用可能な雄性不稔(MS)タバコを細胞融合により作出するため、実験を行った。1983年に、実用品種つくば1号と、Nicotiana suaveolensの細胞質を有するMS系統、MS Burley 21から、それぞれの葉肉プロトプラストを単離し、MS Burley 21のプロトプラストにX線照射(5kR)を施したのち,、両者の間で細胞融合を行った。再生植物は温室内で生育させ、形態が正常でつくぼ1号型の特徴を示す雄性不稔個体を選抜した。1984年には、これらにつくば1号の花粉を交配して作成したBC_1世代31系統を圃場で栽培し、実用形質について調査を行った。育成系統のうち9系統は前世代が正常であったにもかかわらず形態異常を呈していた。このことは、温室実験では形態形質の細部について選抜することが難しく、圃場試験が必要であることを示している。異常系統は雄性不稔性のみを観察し他形質の調査対象から除外した。その他の22系統の生育は正常で16系統が全調査形質についてつくぱ1号と有意差を示さたかった(Table 1)。また、育成系統は、全系統の全個体が雄性不稔性を示した。典型的なMS個体の花をFig.1に示した。MS系統の選抜を行った結果、最良と認めた系統7-2および次善の系統19-1が得られた。これらの選抜系統の後代における安定性を検討するために、1985年には両系統のBC_2、BC_3世代を、1986年には系統7-2のBC_4世代をそれぞれ圃場試験に供試し、対照品種のつくば1号と比較した。MS系統は、対照に比べて各戻し交雑世代とも開花が遅れる傾向を示したが、有意とは認められなかった。草丈、全葉数、および最大葉の葉長・葉幅については一定の傾向が見られず、MS系統は対照とほとんど変わらない値を示した(Table 2)。また、乾燥葉の収量、評価額、全アルカロイド含量およびノルニコチン指数に関する調査結果でもMS系統は、各世代を通じ対照と有意差を示さなかった(Table 3)。したがって、MS系統は核ゲノムについてはつくぱ1号と等質であり、また、実用形質に対するN. suaveolensの細胞質の影響は少ないと言える。すなわち、細胞融合により作出したMS系統の初期世代にはある程度の変異が生ずるが、融合当代およびBC_1世代で的確な選抜を行えば、後代において安定した特性を示す系統を得ることが可能である。雄性不稔性については、MS系統は各世代を通じて全個体がMSであり、雄性稔性を示す個体は1個体も出現しなかった(Table 4)。また、雄性不稔花の形態についても世代間および個体間に差異は認められず、雄性不稔性は安定して後代に伝達していた。したがって、後代において雄性稔性が回復する危険はないものと思われる。以上のように、希望する系統のMS系統が細胞融合により得られ、実際の一代雑種育種に利用可能であることが明らかとなった。
- 1988-06-01
著者
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