イネの遠縁交配におけるF_1不稔性を支配する複対立遺伝子
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
先に著者ら(1984)は、AusおよびBulu群を含む栽培稲80品種を、インド型(IR36もしくはIR50)と日本型(ニホンマサリもしくはアキヒカリ)の検定品種にそれぞれ交配してF_1不稔性を検討し,、Ketan Nangka、Calotoc、CPSL0 17などが両種の検定親と正常稔性を示す「広親和性」品種(WCV)であることを報告した。この実験に供試したインドネシアのJavanica品種24のうち、15品種は、インド型検定品種とF_1不稔性を示し、日本型とは稔性を示す群(Banten群)であり、6品種は、両者とF_1不稔を示す群(Penuh Baru群)であった。しかし、これらのインドネシア品種群相互間のF_1不稔性はよく分かっていなかったのでまずこれを調査した。Penuh Baru群とした4品種は、いずれもKetan Nangkaと稔性を示した。Banten群の代表としたBantenとGamahは、Penuh Baru群の品種と正常稔性を示した。また、Penuh Baru群相互間でも正常稔性がみられた。この結果からこれらインドネシア品種相互間のF_1は不稔性を示さないと結論された。次に、Penuh Baru群としたものはインド型と日本型の双方とF_1不稔性を示すので、これに関与する遺伝子座が既報(IKEHASHI and ARAKI、1986)の第1連鎖群に属するS-5座にあるかどうかを検討した。この群がら程先色のないPenuh Baru IIを選び、その品種のF_1不稔性を、IKEHASHI and ARAKI(1986)の方法で分析した。すなわち、インド型の検定品種としてIR36とIR50を、広親和性品種(WCV)としてKetan Nangkaを用いて、WCV/penuh Baru II//IR品種とWCV/IR品種//Penuh Baru IIという一対の「三品種交配」を行った。ここで、はじめのF_1は正常稔性を示す組合せである。これらの三品種交配の後代の種子稔性を個体別に調査したところ、稔性群と半稔群は大体区別され、稔性群ではKetan Nangkaに由来するC(〓尖着色)およびwx(糯性)の遺伝子を持つ個体が大部分を占め、これらの遺伝子と稔性遺伝子との連鎖を示した(Table 3)。もしKetan NangkaのPenuh Baru IIおよびIR品種とのF_1稔性が、それぞれ独立の遺伝子により支配されるのであれば、その2遺伝子の効果は、三品種交配において最後に、Penu Baruh IIを交配するか、IR品種を交配するかによって、別の座の遺伝子の効果として識別されるはずである。実際には双方の三品種交配を通じて同一の稔性遺伝子がCと密接に連鎖していることが認められた。したがって、これらの交配で稔性を支配する遺伝子は、既報(IKEHASHI and ARAKI、1986)のKetan NangkaのS-5^nによるものと推定された。Penuh Baru IIと日本品種の間のF_1は不稔性を示したが、その不稔性はCおよびwxの分離とは無関係であり、またその近傍のalk遺伝子の分離も正常であった(Table 4)。さらに、Penuh Baru IIと稔性を示すBanten群の品種がF_1不稔遺伝子の行動について、日本品種同様の行動を示すこと(IKEHASI and ARAKl、1986)を考慮すると、Penuh Baru IIもS-5座ではS-5^jを持と推定され、その日本品種との不稔性は別の遺伝子によるものと考えられる。したがって、IR品種のS-5座の遺伝子を既報のようにS-5^jとすると、今回の結果は、S-5^n/S-5^jは稔性となり、S-5^i/S-5^jは不稔となることを明瞭に示したものと考えられる。以上の結果から、S-5座においては、少なくとも三種の複対立遺伝子があり、S-5^i/S-5^jでは対立遺伝子間の相互作用により、S-5^jを持つ雌性配偶子が排除されるため半不稔性を示すが、S-5^nはこれら2つの複対立遺伝子に中立であると考えられる。今後ハイブリッド品種の育成、遠縁交配育種などにおいて、この不稔緩和遺伝子S-5^nの応用が期待される。
- 日本育種学会の論文
- 1988-09-01
著者
関連論文
- ネギの主要在来品種群のアイソザイムの多型性
- 日本型イネの雑種不稔緩和遺伝子(S-5^n)導入系統に日本型とインド型品種を交雑した場合のアントシアン色素原遺伝子(C)ともち遺伝子(wx)の組換価の差異
- ネギ在来種のアイソザイム遺伝子座の同定
- カリフラワー,ブロッコリーおよびキャベツ品種におけるアイソザイム遺伝子座の調査
- Brassica campestrisにおける酸性フォスファターゼおよびエステラーゼ・アイソザイム遺伝子座の同定
- イネの遠縁交配におけるF_1不稔性を支配する複対立遺伝子
- イネの遠縁交雑のF1稔性に関する品種の親和性の検索