1-ブロモプロパン亜慢性曝露による海馬の過剰興奮と細胞内シグナル伝達マーカー

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1-プロモプロパン(1-Bromopropane,以下1-BP)は、主に洗浄溶剤として、産業現場で広く使われている。最近、1-BPを主な溶剤として使用したアメリカと中国の労働者が、中枢神経症状を訴えていると報告された。私達は、昨年、1-BP(700ppm)を長期12週間ラットに曝露し、その後4週間のクリアランスを行った。その結果、神経毒性として、GABA系抑制機能の減弱、NMDA型グルタミン酸受容体の過剰な活性化、および曝露停止後の対照群への回復を報告した。これら実験結果から、1-BPの慢性曝露は神経の興奮を可逆的に増加させるという仮説を提唱してきた。今年度は、700ppm濃度で8週間(6時間/日、5日/週)曝露したラットの海馬において、従来のペアパルス解析に加えて、神経細胞内シグナル伝達マーカー、特にCa^<2+>/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(以下caMKII)と増殖因子活性化プロテインキナーゼ(以下MAPK)の活性の検討を行った。その結果、1-BP(700ppm)を8週間吸入曝露したラット海馬で、1)CaMKII活性の低下と蛋白量増加、2)MAPK活性の増加がみられた。今回の実験結果から、1-BP(700ppm)の8週間(亜慢性)曝露によって、神経機能は興奮性の亢進を示し、細胞内シグナル伝達マーカーの活性量と蛋白量をかえることがわかった。MAPK活性の増加は、てんかんや虚血など病態との関係が示唆されている。本研究で用いた電気生理・生化学的指標は、産業化学物質の生体への影響とくに中枢神経系への影響を評価するうえで有用であることが示された。また、700ppm8週間という曝露条件は、末梢神経毒性が観察された曝露条件と比較して、総曝露量が47%少なく、許容濃度を検討する上で重要な基礎的情報を与えると思われる。
産業医科大学学会の論文
2002-03-01

1-ブロモプロパン亜慢性曝露による海馬の過剰興奮と細胞内シグナル伝達マーカー

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