大学改革と教養教育 : 再創造と保障への視点 (<特集>教養の解体と再構築)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
教養教育のカリキュラムを開発・発展させることこそ、日本の大学が当面している最も緊張な課題である。筆者は、東京大学教育学部長、立教大学全学共通カリキュラム運営センター部長としての経験を踏まえ、学士課程教育における教養教育の創造とその維持に関する所見を記す。 1) 大学の学士課程教育の新しい教育目標を設定することが、重要である。日本の大学人と社会は、現代の人類が当面している課題ならびに将来の世界が当面する諸課題に対して洞察力と感受性を持つ、しかも専門学の教育を受けた若者を育てることを、大学教育の目標に選ぶべきである。学士課程教育の目標は「教養ある専門人の育成」にあるという伝統的理解は、変えられなければならない。すなわち、日本の大学は、リベラル・アーツ教育機関であると考えなければならない。 2) この目標を達成するためには、新しいカリキュラムを編成するべきである。そのカリキュラムは、第一に環境問題、第二に人権に関する理論、第三に生命に関する思想、第三に宇宙に関する知見である。半世紀前、アメリカから一般教育が輸入されてきた当時、これらの四つの知的分野は、若い世代に必要な教養とは考えられていなかった。しかし、現在、これら四つの知的分野は、現代世界の人類の課題を理解するのに不可欠の知的分野すなわち現代のリベラル・アーツを成すものと考えられる。 3) この数年間、日本各地の大学で教授法やカリキュラム構成について多くの改善・創造の努力が払われている。だが重要なことは、教養教育のカリキュラムを創造し運営するしっかりした、権限有る、永続的な組織が作られることである。そのような組織こそ、カリキュラムの永続的な改革、すなわち真の意味での大学改革に不可欠なものである。だが残念なことに、多くの国立大学は、硬直した内部組織に妨げられて、このような組織を作ることに失敗しているように思われる。 筆者は、かつて勤務していた立教大学の教養教育運営組織の例を紹介しつつ、教養教育を成功させる鍵は、大学の教育スタッフが意識変革をするか否かにかかっていると主張する。すなわち「自分は学部教授会に所属している、しかし全く同じ意味で教養教育に責任を持つ組織にも所属している」と考えることが大切であり、それこそが、大学改革に連なるカリキュラム改革に成功するための鍵である、というのが筆者の結論である。
- 1999-12-30
著者
関連論文
- 「文検」の研究(2) : 「歴史」・「国語」の試験問題ならびに受験記の分析
- 拓殖大学史の編纂を考える(創立百年史編纂室顧問座談会)
- 共催S1401 21世紀の大学体育のあり方
- 20世紀、日本の教育は何を為しえたか
- 大学改革と教養教育 : 再創造と保障への視点 (教養の解体と再構築)
- 「学校」と「保健」「健康」 : 三つのトピックから
- 大学のオートノミーと大学評価 (大学評価の新段階)
- 大学のオートノミーと大学評価
- 大学改革を考える : 体験を交えて(大学教育開発研究センター報告)
- 共催S1405 今後の大学教育と「保健体育」の意義・役割 : 21世紀大学教育の目標・構成の視点から
- 百年史の意義と作成のプロセスを語る
- 高木英明著, 『大学の法的地位と自治機構に関する研究』, 多賀出版, 1998年2月発行, B5判, 360頁, 定価 6,000円+税