価値多元化社会と教育における公正の問題 (<特集>価値多元化社会における教育の目的)
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概要
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本稿の内容は次の内容を含んでいる。導入 1.価値多元化社会と多文化社会 2.多文化社会と公正及び多元的価値の方向付け 3.教育行政における公正認識の「揺らぎ」-アメリカの場合 4.イギリスの教育改革と公正の問題 5.市場原理と公正 6.ハイエクとロールズにおける公正 本稿における主要な目的は、教育における公正の問題がいかなるものであるかを明らかにすることである。まず第一に、公正と価値多元化社会の概念について検討されなければならない。第二に、多文化主義社会における公正の問題と価値の間の順序づけが検討される。第三に、公正と価値多元化社会における教育改革の問題が検討される。そして、目を転じて、問題点の抽出のためにハイエクの議論を採用する。それらの問題点はロールズのそれと類似している。そして最後に教育における公正に関する問題を概観する。価値多元化社会における課題は、実質的に多民族、多宗教社会における課題と密接な関連を持っている。多文化主義は普遍的な価値観を志向する。価値多元化社会も同様の志向を持つと仮定するならば、社会的に不利を被っている集団に対するフェアな処遇が、社会的公正の観点から求められているのである。それは、民族的にあるいは宗教的なマイノリティ集団が多数派の価値を拒否してきたことにそうした不利の原因があることによる。アメリカやイギリスの事例は、公正に関する関心が平等主義者のそれから納税者のそれへとシフトしてきたことを知らせてくれる。ハイエクは、平等主義者に対し、人間的な尊厳についての観念の欠如を理由に批判する。彼は、ライフチャンスが人間の諸活動のうち最も重要な要因の一つであると主張する。多くの研究者がハイエクとロールズの間の違いを強調してきたが、ある者は彼らの間の類似性を指摘した。すなわち、ロールズによる正義の原理は分配における結果の平等を意味しない。そうではなく機会の平等を意味するのである。格差原理は、全ての人がライフチャンスをものにできるようにするための手続き的な正義を要求する。ここで、福祉社会が価値多元化社会と両立し得るとの前提から出発するならば、教育政策の課題はライフチャンスを得るための出発点として教育の機会均等のために、手続き的な平等を如何にして効果的かつ意義あるものとすることができるかということに焦点づけられる。この前提は競争社会においてのみ具体化するのである。共通の普遍的価値観(時に社会的根本思想)がホストの競争主義的な社会によって規定されるとするならば、価値多元性の意味内包は決定的な制限を被ることになろう。
- 1997-09-30
著者
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