ウリミバエとミカンコミバエの日本および近接温帯地生息の可否について : 第1報 両ミバエの発育生殖の可能温度, 適温ならびに可能低温限界と世界の分布地とくに東洋温帯地に対する関係
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
台湾その他の熱帯地にのみ分布して,青果野菜類に大害のあるウリミバエ(Dc)とミカンコミバエ(Dd)が昔から伝播の機会があったにもかかわらず,日本やその近接温帯地に土着しない事実は,生態学上興味あるばかりでなく,青果類の輸入にも関係があるので,生育繁殖あるいは土着の可能性があるかどうかを知るために,温帯の冬の低温と食物を制限因子と想定し,これらが両ミバエの生育,繁殖,寿命にどのように影響するかについて詳しい実験生態学的研究を行なった。報告は3回にわけて行なうが,第1報では発育生殖の可能な温度範囲,適温範囲,可能な低温限界についての実験結果と,これらの温度関係が世界の実際の分布地,また日本や隣接東洋温帯地に対してどのような関係になるかについて検討した結果を報告した。低温に対する抵抗力は,DcがDdより多少大きいが,差異は小さいから,特別の場合を除いて両者を一緒にして結果を摘要する。1 卵,幼虫,蛹(以下総括して前成虫という)がそれぞれ次の階梯,あるいは成虫まで発育のできる温度は,10∼12°Cから34∼36°Cにいたる範囲,成虫が交尾産卵のできるのは14∼16°C以上,天然寿命を保つのは9°C以上の温度である。2 各種の条件から判断して,前成虫の発育に適した温度は14∼16°Cから30∼32°C,成虫の寿命と生殖作用に対しては20°Cから24∼25°Cにいたる範囲である。3 適温と地球上の分布,生息密度,被害の大小の関係はきわめてよく一致する。4 日本本土や東洋温帯地に対する関係は,九州四国の両南端以北の最寒月の気温は8°C以下,北海道以南は最暖月16°C以上であるから,高温季節には生育繁殖ができるが,冬は活動停止して休眠するか,然らざれば低温死におちいる地方と推定される。5 発育零点はDcがDdより1°C低い。両種とも令が進むにつれ,恒温は変温より,漸降温は恒温と変温より低いが,両種を通じて恒温では卵,各令幼虫は9∼11°C,蛹は8∼10°C,変温では幼虫12°C,蛹11°C,漸降温では幼虫,蛹とも8∼9°Cである。成虫の飛翔,ほふく運動は13∼14°C以下,生殖細胞の成熟と交尾産卵は13∼15°C以下では行なわれず,天然寿命(3ヵ月以上)は8°C以下では保持されない。6 発育繁殖零点と地球上の分布地の関係は,きわめてよく一致する。7 東洋温帯地に対する関係は,1月の平均気温10°Cの等温線は八丈島とトカラ群島を結ぶ線に一致するから,以南の八丈島,小笠原,南大平洋諸島,沖繩,台湾は永久的生息地であり,以北は冬の期間の発育と繁殖は困難の地方であると推定される。
- 1964-03-25
著者
関連論文
- ウリミバエとミカンコミバエの日本および近接温帯地生息の可否について : 第3報 総合考察と結論
- ウリミバエとミカンコミバエの日本および近接温帯地生息の可否について : 第2報 両ミバエの発育生殖積算温度, 低温致死日数ならびに飢餓生存日数と東洋温帯地に対する関係
- ウリミバエとミカンコミバエの日本および近接温帯地生息の可否について : 第1報 両ミバエの発育生殖の可能温度, 適温ならびに可能低温限界と世界の分布地とくに東洋温帯地に対する関係
- 長良川河口堰と水産 : 調査の概要と問題点(河口処理と沿岸海洋-木曽三川の河口処理を中心とするシンポジウム)
- 農薬による公共用水域の汚染
- 5 光による第1化休眠幼虫と第2化休眠幼虫の相違点について(昭和32年度日本農学会大会分科会)