コスモスアザミウマの生活環と翅多型
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概要
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コスモスアザミウマの生活環,ならびに飛翔移動および翅型発現の実態を明らかにする目的で,京都市の野外において,コスモス,マリーゴールドおよびタンポポ類の頭花上に生息する本種個体群の採集を1991年から1994年まで行ったほか,コスモス圃場に水盤トラップを設置して飛翔個体の採集を行った.さらに,雌の産卵と,花粉摂食,日長,移動との関係を明らかにする目的で,既述のキク科植物および水盤トラップで採集した雌成虫を解剖して,卵巣の発達状況を観察するとともに,雌を一定条件下で飼育して産卵前期間と産卵数を調査した.キク科植物の頭花に雌成虫は周年生息していたが,冬季および早春には雄成虫の生息を確認できなかった.春季から秋季の間,野外で採集した大部分の雌が成熟した卵をもっていたが,晩秋から早春には雌の卵巣は未発達であった.短日条件下で発育した雌には生殖休眠が誘導された.これらの結果から,雌成虫は生殖休眠状態で越冬するが,雄成虫は秋季に死亡し,越冬しないと考えられた.花粉を摂食した雌成虫は,摂食しないものより産卵前期間が短く,産卵数が多かった.コスモスにおける雌成虫の密度は,小花の80%以上が開花し,子房が肥大しておらず,周辺小花の花弁がほぼすべて存在している頭花で顕著に高かった.コスモス圃場に設置した水盤トラップ,および周辺小花の花弁がほぼすべて存在し,子房が肥大していない開花段階のコスモス頭花で採集した雌では,周辺小花の花弁の落下および子房の肥大が顕著なコスモス頭花で採集した雌と比較して,十分に成熟した卵を持つ個体の構成比率が低かった.これらのことから,十分に成熟していない卵を持つ雌は,卵の早期成熟と高い増殖力の達成のため,春季から秋季にかけて,花粉を備えた寄主植物の花へ移動し,これを摂食すると考えられた.雄の翅型は,左右前翅の腹節上における位置,および左右前翅長の顕著に異なる個体の出現頻度から,長翅型,短翅型,および中間型の3翅型に類別できた.雄の翅型構成比率に明確な季節変動パターンは認められず,その年次変動は大きかった.コスモス頭花上における雄の短翅型構成比率は,周辺小花の開花開始から間もない頭花よりも,頭花上の小花の大部分が開花した後の頭花の方が高かった.キク科植物の頭花から採集した個体群においても,水盤トラップで採集した個体群においても,成虫性比は常に雌に偏っていた.水盤トラップで採集された雄はすべて長翅型であり,中間型および短翅型は採集されなかった.したがって,本種の短翅型は飛翔しないと考えられた.
- 1999-02-25
著者
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