アブラムシの有し型胎生雌の出現について : VIII.アブラムシの生活環における有し型出現の生態的意義
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概要
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キビクビレアブラムシでは無し(翅)型からは有し(翅)型が容易に出現するが, 有し型からはほとんど有し型が出現しない。したがって有し型から生じた幼虫はその生理的性質が無し型からの幼虫に比べて著しく異なっているのではないかと考えられる。これについて筆著(VI, 印刷中)は前者の第1令幼虫期間の長さに著しい個体差のあることを考慮に入れて, この期間中にしが(翅芽)の発達を抑制するホルモンまたはホルモン様物質が分泌されており, その分泌量がある限度を越すとその超過量に応じて体の成長をも抑制するようになるのではないかと考えた。なおこのほかにも両幼虫間になんらかの差のあることが予想されるので, 絶食, 古葉の摂取などの異常生活条件に対するこれらの両系幼虫の反応を観察し, その結果から有し型出現の生態的意義を明らかにしようとした。これを要約すると次のとおりである。1)キビクビレアブラムシの有し型から生まれた幼虫は無し型からの幼虫に比べて食草の新鮮度に対する感受性がやや鈍く, 絶食に対する耐久性も強いようである。しかしこれらの性質が見られるのはその幼虫1代かぎりであって, 次の代には消失する。これに対して無し型からの幼虫は古くなった食草をきらう性質がいくらか強く, 飢餓に対する耐久性も弱いようである。すなわち前者は後者より生活条件の低下に対し強い耐性を示す。一方無し系幼虫でも第3令以後, しがが見え始めてくると有し系幼虫とほとんど変わらない程度に飢餓に対する耐性が強くなる。しかし有し型からも有し型の出やすいムギヒゲナガアブラムシにおいてはこのような現象がはっきりと見られなかった。2)したがって, キビクビレアブラムシの生活環において, 有し型胎生雌が出現するということは, 単に移動型を生じ生活に不都合な区域から好都合な区域へ分散して次世代を生むということのほかに, 有し型それ自体の体質が発育の途中第3令以後から強くなるとともにその強さを次の世代へ伝えるということをもあわせ意味するのではないかと思う。すなわち有し型の出現によりそれ自身をも含めて2代連続して健全世代を生ずることとなる。これに対しムギヒゲナガアブラムシにおける有し型出現の意義は単に移動可能の型の出現と四散に限定されるように思われる。
- 日本応用動物昆虫学会の論文
- 1960-03-30
著者
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