下顎の切歯点と運動論的顆頭点における限界運動範囲の形状と容積 : 顎機能診査のパラメータとしての検討
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概要
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著者は, 下顎の切歯点と運動論的顆頭点における限界運動範囲の立体モデルおよびその容積のデータを顎機能異常の診断などに応用する研究を進めてきた.立体モデルを用いて顎機能異常を診断する場合は, 視覚的にモデル形状が異常であるか否かを定性的にとらえることはできても, その程度について定量的にとらえることは不可能である.そこで, この異常の程度を定量的にとらえる方法として, 著者は下顎の設定された点の限界運動範囲の容積を算出する方法に着目し, 検討を行った.本研究の目的は, 下顎の切歯点と運動論的顆頭点における限界運動範囲の容積の算出方法を確立すること, およびその方法で得られた容積のデータを顎機能異常の診断に使用可能か否かを明らかにすることである.被験者は, 顎機能異常の認められない正常者11名および開口障害を有する顎機能異常者3名とした.下顎限界運動路の測定は, 6自由度顎運動測定器を用いて行い, 測定した下顎限界運動路は前方限界運動路, 左右側方限界運動路, 後方限界運動路の4種類の運動路に, これらの各運動路間の中間の2種類ずつの各中間限界運動路を加えた12種類である.切歯点と運動論的顆頭点において, これらの運動経路で囲まれた限界運動範囲の容積を算出して解析を行い, また下顎の運動機能を表すパラメータである最大開口距離などとの関連性について検討を加え, 以下の結論を得た.1.これまでに報告した下顎の切歯点と運動論的顆頭点における限界運動範囲の立体モデルを作製する方法と同じ下顎限界運動路のデータを用いて, その運動範囲の容積を新たに算出した.2.正常者における切歯点の下顎限界運動範囲の容積は3848.0±1543.2mm^3, 運動論的顆頭点の運動範囲の容積は12.0±5.2mm^3であり, 解剖学的個体差, 下顎運動の機能的要因などによるものと考えられる個人差が大きかった.したがって, これらの容積を正常域と考えると, その範囲はかなり広いものになることが示唆された.3.開口障害を有する顎機能異常者の術前, 術後における切歯点の下顎限界運動範囲の容積について検討した結果, 容積の増加は顎機能異常の改善を示しており, また, 容積の増加の程度から顎機能異常の改善の程度を推測することが可能であった.4.今回新たに算出した切歯点における限界運動範囲の容積は顎機能異常を定量的に評価する上で有用なパラメータであることがわかった.しかし, 運動論的顆頭点における運動範囲の容積については, 顎機能異常との関連について今後さらに検討する必要性が認められた.5.下顎の運動機能を表す切歯点の限界運動に関連するパラメータの中では, 単独では前後幅が切歯点における下顎限界運動範囲の容積と最も相関が強かった.しかし, それ以上に最大開口距離と前後的滑走運動距離(または前後幅)と左右的滑走運動距離(または左右幅)の積の値が強い相関を示した.したがって, 今回著者が検討した切歯点における下顎限界運動範囲の容積は, これまでの下顎の運動機能を表してきた複数のパラメータを総合したものと考えられ, より有効なパラメータであると判断した.
- 日本顎口腔機能学会の論文
- 1996-06-30
著者
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