現代企業のガバナンスと関係特殊投資 : 不完備契約論を超えて
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概要
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本論文の目的は,現代株式会社のガバナンスとして,単なる株主だけでなく各ステイクホルダーを考慮に入れたパワー・バランス論が適合的であることを,新制度派経済学を中心にした企業理論を用いて示し,さらにその理解を深めることにある。現代企業の特質としては,周知の通り現在の大半の企業が株式会社形態を採用していることと,さらにいわゆる情報通信革命及び知識社会の到来を契機とした人的資源の重要性が高まってきていることが指摘される。したがって,現代企業のガバナンスを議論するにあたっては,これらの現代企業の特質を十分に理解して行われる必要がある。しかし,従来の企業理論の分析対象は主に個人企業であり,株式会社については所有者が多数存在し分散しているという状況に言及しているにとどまっていたと言ってよい。また,人的資源についても,従来の企業理論では,物的資産を媒介にした間接的な把握にとどまっており,人的資源の重要性について十分に考慮されてきたとは言いがたい。そこで本論文では,Rajan and Zingalesの「アクセスJおよびBlair and Stoutの「調停ヒエラルキー」の概念を用いて,既存の企業理論を再構成し,前述のような現代企業の特質を踏まえた新たな企業理論の構築を目指す。そして現代企業に適合的な企業理論では,企業とは多様な資源の集合体であり,関係特殊投資のネクサスであることを明らかにする。そして不完備契約論からは株主主権論が導出され,これに対して新たに再構成された企業理論からは各ステイクホルダーのパワーを考慮に入れたパワー・バランス論が導出されることを指摘する。