『山師、メルカデ』 : 原作から脚本まで
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概要
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1840年、戯曲『ヴォートラン』(Vautrin)の公演が失敗した直後、作者バルザック(Balzac)は、新たな喜劇『メルカデ』(Mercadet)に取り組んだ。8年後、作者は原稿に修正を加えた上、タイトルを『山師』(Le Faiseur)に変更した。同作者の他の主要な劇作品が忘れられていく一方で、この喜劇は1851年の初演後、何度も舞台にかけられてきた。今世紀に限ってみても、1909年から1996年までの間に様々な演出が試みられ、短期間のものも含めると、上演は15回を数える。本橋では、喜劇『山師』が演出家や有名な役者を魅了し続けてきた要因を、テキストの分析と現代の演出をとおしてさぐってみた。投機師を主人公にした劇作品は『山師』以前にも存在し、この喜劇には同時代の他の作家の影響が窺える場面もある。しかしながら、「お金」という単語、及びその派生語が『山師』では集中して使われていることが、戯曲『ヴォートラン』との比較によっても明らかになる。この手法は、金銭万能となった時代にメルカデー家が置かれた窮状を、現実感を伴って我々に訴える効果を生みだしている。また、制作当時に生まれた語句・新たな意味を付与された単語(例えば faiseur)などの採用は、『山師』にのみ見られる特徴である。演劇用語が主人公の行動を的確に描写している点も見逃せない。政治・社会を批判する登場人物の台詞は、作者の鋭い観察眼の産物であるといえる。 1993年のジャン=ポール・ルシヨン(Jean-Paul Roussillon)の演出は、以上のような言語的特徴をもつ原作をかなり忠実に再現しつつ、それを風俗喜劇に仕上げる工夫を凝らしている。主役を演じたミシェル・オーモン(Michel Aumont)の見事な演技だけでなく、バルザックの喜劇が内包する本当らしさや現代性が、批評家や聴衆の好意的な反響を引き出したといえよう。
- 沖縄国際大学の論文
- 1998-03-31
著者
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