<論文>バルザック作『夫婦学校』 : 原案から現代の公演まで
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概要
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小説の中で"真実"の描写を追求したバルサックは,戯曲においても"真実らしさ"を盛り込もうとした。その最初の試みが5幕のブルジョアの悲劇『夫婦学校』である。 1839年に完成したが,作品全体が長すぎるという理出で,ルネサンス座での公演は実現しなかった。1907年にテキストが出版されるまで,この戯曲は人々の記憶から遠ざかっていた。劇場での初演は1910年のことで,その後1943年に再演されただけで,これまで殆ど研究の対象にならなかった。『夫婦学校』がバルサックの劇作品全体の中でどのような位置を占めているのか,それを探るのが小論の目的である。作品の梗概に続き,小論の第1項から第VI頂において,主要テーマ,登場人物の特徴,場面展開の仕方,ブルジョアの世界,戯曲の様式,作品の成立過程に開する考察を順次進めた。一家の士人の恋愛事件,夫婦間の軋轢,娘の教育というテーマを通して,作家は19世紀前半のブルジョアジーの家庭生活の内面を的確に描き出している。古典劇,とりわけモリエールの影響を感じさせる場面,さらに,ユゴーの『エルナニ』で使われたものと似通った台詞がこの "ブルジョアの悲劇"に見られるが,バルサックはロマン派劇全盛の時代にあって,劇作家としての独自の立場を保持していたと考えられる。つまり,悲劇に経済的・社会的視点を押入して現実感をもたせる工夫をした点や,鋭い観察眼に息づく情念の描写などに,バルサックの劇作術の革新性が認められる。VII頂では,191O年と1943年における『夫婦学校』の公演時に発表された多数の劇評に解説を加えながら,演出と作品の受容のありさまを調査。その結果,翻案・演出の面で批評家の意見が分れてはいるものの,戯曲の主題,筋の展開,及びバルサックの歴史・社会観を反映した台詞は,現代でも充分に通用するものになっていることが確認できた。 1848年に制作された 『山師』と『継母』の中で,『夫婦学校』の主翼テーマが有機的な広がりを見せているのを知れば,『夫婦学校』がその先駆的役割を果たし,それら二作品と共にバルザックの戯曲の三部作を構成しているといえるのではないだろうか。
- 2000-10-01
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