大伴坂上郎女の家持への思いやり : 萬菓集巻六・九七九番歌の論
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概要
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本稿は、萬葉集巻六の大伴坂上郎女(おほとものさかのうへのいらつめ)の九七九番歌を取り上げ、(1)題詞の原文の訓(よ)みと内容、(2)歌詠の真意、(3)歌詠の成立と背景について考察し、(3)の考察をもとに家持の「勇士の名を振(ふる)はむことを慕(ねが)ふ歌」(19四一六四〜五)に言及したものである。題詞は「大伴坂上郎女、姪(をひ)家持の佐保(さほ)より西の宅(いへ)に還帰(かへ)るに与ふる歌一首」と訓むのが妥当。歌詠の「我が背子(せこ)が着る衣薄し」は、家持が着ている夏用の着物の薄い状態を見るままに述べた表現と見られる。それは、時節がすでに初秋に入っているがゆえに成された表現と考えられる。そのことは、「佐保風はいたくな吹きそ」の検討からも導かれてくる。九七九番歌は4五四九、8一六三六の歌を踏まえて家持への深い思いやりを述べた歌と捉えられる。かような九七九番歌は、直前の「山上臣憶良が沈痾(ちんあ)の時の歌ー首」(九七八)と深くかかわって成立したと覚しい。この世を去ろうとしている憶良のことを思う時、二年前に亡くした父大伴旅人への思いも胸にこみ上げてきて深い悲しみに浦らわれた家持の身をやさしくいたわる歌が九七九番歌だと思う。そして、家持は父旅人と憶良への思いを後に「勇士の名を振はむことを慕ふ歌」に結晶させたのである。
- 1993-12-10
著者
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