個人主義の確立と税制改革 (前川寛教授退任記念号)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
『日本婦人論』(1885年)において福澤諭吉は,財産は人間社会における権力の源であり,西洋では婦人が自己の財産を持っている,従って,家庭内でも,外部との交際においても,他に依存しない生活をしている,と指摘した。自由を得るためには,経済的裏づけが不可欠であることを見抜いていたのである。だが,基本的人権の尊重を謳った新憲法成立から半世紀以上が過ぎたいまも,税法上,多くの女性が経済的に夫に従属しているのであり,この改善が見過ごされたままになっている。個人主義に基づいた新しい家族制度のあり方を模索し,それを促進する税制を確立する時期にある。そのための税制改正として,次の諸点を提案したい。1,婚姻期間中の年々の事業所得及び給与所得は,夫婦が得た所得を合算し,合計額の二分の一をそれぞれの課税金額とすること。これは,夫婦の活動は一体であるといういう考え方に基づく。2,利子所得,配当所得,不動産所得,譲渡所得など過去の蓄積にかかわる所得,および一時所得は,名義人各自の所得とする。このうち総合課税がなされる所得については,夫と妻それぞれが第1項の課税金額にこれらを加えて申告する。分離課税の所得についても,それぞれが申告する。このほか,退職所得については,婚姻期間中に相当する分については,夫婦で折半する。雑所得については,原稿料・講演料等は折半とし,過去の蓄積に由来する所得については各自のものとする。3,相続税は,最高税率を引き下げるのではなくて,法定相続人控除(法定相続人一人あたりの控除額)を大幅に引き上げるべきである。現行の基礎控除は,定額控除が大きく,法定相続人控除が小さい。従って,相続人が増えれば,相続人一人当たりの基礎控除が少なくなり,子供の多い家庭に不利である。基礎控除額を法定相続人に比例するようにし,しかも法定相続人控除額自体を拡大すれば,親の財産形成意欲も増し,子供の将来に対する親の不安も軽減しよう。以上の提案は,育児・家事の社会的価値を認め,それに従事する人たちの基本的人権を経済的に保障するものである。また,少子化対策としても有効と考えられる。
- 2001-02-25
著者
関連論文
- 個人主義の確立と税制改革 (前川寛教授退任記念号)
- 周恩来と中国現代化政策
- 「二十一世紀のマネジメント」 の開設
- 「調整期」における商業観と中国体制改革 (清水猛教授退任記念号)
- 年度三田会奨学金についての謝辞
- 中国経済体制改革と現代企業制度 (故鈴木清之輔教授追悼号)
- 退任記念講演 中国経済近代化と体制改革
- 福島義久教授の人と学問 (福島義久教授追悼号)
- 福島義久教授を偲んで
- 中国経済近代化と〓小平の思想(安井孝治教授退任記念号)
- 「分業」の視点から見た中国第7次5ヵ年計画 : その進歩性と実施上の諸制約(白石孝教授退任記念号)
- 白石孝, 『戦後日本通商政策史 : 経済発展30年の軌跡』, 税務経理協会, 1983年11月, 328頁, \3,800
- 中国経済近代化政策における国内商業の役割について(商学部創立25周年記念号(2))
- 中国経済近代化論序説
- 戦後日本貿易政策史への序説
- Brian Harrison ; South East Asia : a Short History, 1954(2nd ed. 1963 London), 「東南アジア史」, 竹村正子訳, みすず書房, 1967
- 後進国経済近代化論の成立とその背景
- H・G・Johnson, "The Possibility of Factor-Price Equalisation when Commodities Outnumber Factors", Economica, Vol.XXXIV, No.135, August, 1967, pp.282〜288