企業R&Dによる労働需要への影響について (西川俊作教授退任記念号)
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概要
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この論文の目的は,企業が行う研究開発支出によって蓄積される知識ストックが労働需要にどのような影響を与えるかについて産業別に計測することである。本論文では,R&D支出が如何になされるかについては外生的要因とみなし,フローとしての支出を知識ストックに積み上げたのち,産業別の費用関数の推定を通じて知識ストックと労働需要関数の関係を明らかにする。その際,重要なことは,如何にフローをストックに積み上げるかという点と,ストックがどのような速度で陳腐化していくかという点である。この2つの問題を解決すべく,分析の手順は以下のように説明される。まず,総務庁『科学技術研究調査報告』から得られる性格別研究開発支出(基礎,応用,開発)を1960年から1992年まで人手し,各年の数値を昨年度の研究で用いられた研究懐妊期間を考慮したラグ分布関数によって復数年に割り振る。次に,割り振られた数値を1960年から92年までそれぞれの年について足し上げ,33年間のR&D投資額を求める。次に,Pakes and Schankerman [21]のモデルに日本の特許登録件数残存率のデータを適用して計算された償却率を用いて,33年間のR&Dストックを積み上げ計算によって算出する。ここまでがR&Dストックの計算手順である。費用関数の推定に際して必要とされる産業別投入要素価格および生産物価格は,慶應義塾大学黒田研究室所有のデータベース(KDB)から引用する。ただし,R&D投資分かKDBでは生産要素の投入額として扱われているため,二重計算を防ぐ意味から基礎,応用,開発別R&D支出を投入要素別にKDBから控除している。こうして作成されたデータベースを用い,費用関数を推定した結果,潜在的には産業別,R&Dの性格別に効果の大きさならびに方向性にバラツキがあるものの,実際の観測値から計算されるトータルのR&Dの効果は,機械系産業を除けばほぼゼロ近辺に集中することがわかった。とりわけ基礎研究は労働需要を増加させる効果を持つ。このことは,企業が研究開発を進めると技術進歩によって労働が機械に置き換わり,労働需要にマイナスの効果を与えるのではないかという危惧を否定する結果と言える。研究開発は新たな分野および製品市場を開拓し,労働市場を活発化する効果も有しているのである。
- 慶應義塾大学の論文
- 1998-10-25
著者
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