景気変動下におけるわが国の雇用創出と雇用安定 (西川俊作教授退任記念号)
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概要
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(1)従来,わが国では1国全体の雇用の安定を主に既存企業の雇用保障によって達成しようとしてきた傾向が強い。近年,既存企業による雇用創出率は低下しており,逆に雇用喪失率が高まってきている。さらに新規開業率の低下や廃業率の上昇を考慮すると,完全雇用を達成するためには新規開業率を引き上げるための対策が必要になっている。(2)産業計における雇用の変動を見ると,わが国では雇用喪失率の変動は相対的に小さく,1国全体の雇用量の変化は主に雇用創出率の変化を通じてもたらされてきたといえる。すなわち景気が後退しても,雇用喪失率の方は相対的に安定しており,雇用量の減少は雇用創出率が大きく落ち込むことによってもたらされてきた。そして,バブル崩壊後は,雇用喪失率も上昇してきており,雇用創出率の低下に拍車をかけている。(3)産業別に雇用創出率と雇用喪失率を見ると,情報サービス,不動産業,建設,小売,情報サービス,通信といった産業では雇用を創出する事業所と喪失する事業所が並存している一方,電気ガス,鉄鋼,医療,石油製品,化学といった産業では各事業所が同じ方向を向いて一斉に雇用を変動させている。(4)産業を賃金水準により相対4分位に分け年々の雇用変化を比較すると,1986〜91年においては高賃金産業の方が雇用者数の増加は大きく,低賃金産業の方が小さかった。92〜95年の雇用縮小期においては,賃金の低い第I分位の産業では雇用がもっとも大きく減少しているが,第II分位から第IV分位の産業では雇用減少の差はあまり見られない。(5)雇用量変動の背景を見ると,86〜91年においては賃金の高い産業の方が雇用創出率も若干高いが,それ以上にこれらの産業における雇用喪失率の低いことによる影響が強く現れている。他方,92〜95年では雇用喪失率はそれ以前と同様,賃金の高い産業の方が小さいが,雇用創出率はそれまでとは逆に賃金の高い産業の方が大きく低下したために,階層間の雇用量の変化に違いが見られなくなった。(6)性別に見ると,男女とも高賃金産業の方が雇用量の増加は大きいが,女子の場合,両期間とも一般労働者を減らす産業が多く,パートタイマーの増加でこれを補っていた。86〜91年にあってはパートの増加が一般労働者の増加を上回っていたために,全体の雇用者数は増えていたが,92年以降はパートの増加の方が下回ったために減少に転じている。とくにこうした傾向は第Iから第III分位の各産業で強く見られる。賃金の高い第IV分位においては両期間ともパートの増加ともに一般労働者も増加している。
- 1998-10-25
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