企業の利害と社会・文化的価値観に関する研究 : 日本企業の公益志向理念に注目して
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概要
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企業者の表明する理念は企業活動とどの程度にかかわりを持つのであろうか。明治以来,日本の経営者の多くは公益志向の理念を表明してきたが,これには,タテマエ論が付きまとってきた。アダム・スミス以来の利己心中心の経済人観によれば,利己心が企業行動を左右する中心価値である。他方,ウェーバーの見解によれば,社会・文化的価値体系の下に選択された理念は,より長期的な行為の方向を決定する役割を果たすのであり,理念と利害の葛藤がよりよく説明される。本稿はウェーバーの選択的近親性理論にしたがって,企業活動を利害と諸価値との双方の影響下にとらえる理論的フレームワークを提示する。ここにいう選択的近親性の理論は,諸価値のなかから一定の理念が形成されるメカニズムにかかわる理論である。これに従えば,企業に選択された諸価値は,個別企業者の表明する理念として具体化する。日本企業の成立期以降,多くの企業者に表明されてきた公益志向理念は,西欧への対抗意識を色濃く反映した,ビジネス・イデオロギーとしての経営ナショナリズムであった。しかし,開国当初から日本をひとつの「国」として明確に意識していた人々がごく少数しか存在せず,また,封建制の名残によって財商意識が広く存在していた当時の日本で,なぜ経営ナショナリズムのようなビジネス・イデオロギーが形成されたのかは自明ではない。本稿では,当時の企業者が旧士族階級と商人階級の双方から多く排出された事実に注目し,両階級の意識と利害関心について考察する。それによって,日本の企業者が,社会文化的価値観との近親性と,利害関心とにもとづいて,経営ナショナリズムを「選択」した点について明らかにする。
- 1997-08-25
著者
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