中小企業は「教育的」に扱われてきたか (佐藤芳雄教授退任記念号)
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概要
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「教育的」とは人々がそれによってよく生きる契機を与えることである。本稿では,中小企業がどのように教えられ,また,学ばれてきたか,ということを教育的視点から問題にする。そうした視点から見て,学校は中小企業を「教育的」に扱ってきたか。教育では考え方の枠組としてカリキュラムの目標の習得を重視する考え方と,学習者の主体的な探求を重視する考え方の対立がある。これとは別に,「中小企業」の授業では,マクロ的視点からの二重構造論からのアプローチと,ミクロ的視点からのダイナミックな企業活動からのアプローチの違いをみることができる。カリキュラムの習得という立場からは,自分の描く中小企業像こそが実像であり,自分の中小企業像と異なるものは虚像となる。これまでは二重構造の視点が支配的であった。教育の場では中小企業の扱いは「教育的」に正当であったか。さらに教育的問題として,授業以外に学校や社会が子どもたちの「中小企業」の認識にどのような影響を与えているかを問題にしないわけにはいかない。子どもたちが何を学んでいるのかという問題は,意図的な授業とは別の,重要な問題である。私たちは教えるという文脈では二重構造というマクロ的な視点が支配的であったこと,また,日本のメリトクラシーのなかで潜在能力を重視する学歴主義が,大企業と中小企業を序列化するという認識を与えてきた過ちを指摘できる。私たちは「教育」という視点から,「中小企業」という概念の形成を改めて見直す必要がある。「下請け」でない中小企業が多々あり,「系列」とはいえ,その内実はきわめて多様であるという事実から二重構造からの視点を吟味し,生きがいという視点からメリトクラシーを見直さなければならない。それは単に社会の中小企業を見る視点の変換を求めるだけではなく,中小企業に関わる人々の視点の変換でもなければならない。
- 慶應義塾大学の論文
- 1996-02-25
著者
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