東南アジアにおける民族服の研究(第1報) : タイ国山地民族の生活と衣裳
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1.インドシナ半島のうちでタイ国は,永く他の民族の支配を受ける事なく,独立国家としての立場を守ってきた唯一の国であり,日本とも古くから深い関係を持ってきた.また,この国は複合国家としても広く知られているが,その中でチェンマイ,チェンライなどを中心とする西北部山地に住む諸民族は,独自の生活習慣を持ち,特有の民族服を身につけている.これについて私たちは,文献と国立民族学博物館および名古屋女子大学生活科学研究所の資料をもとに研究を行った. 2.上記の資料によると,現在タイ国にはメオ族・ヤオ族をはじめ約14の山地民族が住んでおり,これらは主として西北部の山地に分布している. 3.彼らの生活の特色を解析すると,次の様な諸点が上げられる. (1)各種族のほとんどが原始宗教を信仰しており,精霊に豚や鶏のいけにえを供える習慣がある. (2)一部の種族(メオ族・ヤオ族)には,漢字の読み書きができる者がいるが,多くは文字を使用しない. (3)彼らの多くは,焼畑農耕を営み,綿を栽培し,自ら機を織り,染色をするなど自給自足の生活を行っている.また,規模の大小はあるがたいていはケシの栽培を行い収入の道を計っている. (4)衣裳は特別の場合を除き,日常着・仕事着・晴れ着などの区別はなく,常に同じものを着用している. (5)ある種族(メオ族・ヤオ族)は,犬を彼らの祖先として崇める習慣があるが,他の種族(アカ族)では,これを好物として食用にするものもある. 4. 各種族の最も顕著な特色は,民族衣裳である.それは各種族ごとに特有の染め,織り,デザイン,アクセサリーをしており,他の種族と一見して容易に区別ができる.服装は男性の場合さほど目立たないが,女性において特に目立つ. 5.これら山地民族の生活や衣裳も,時代の変遷に伴い少しずつ変化が現われてきている.即ち平地民との交流により,彼らの生活にも永年母から子へと根気よく歳月をかけて伝承されてきたものも,金ですぐ買える安易なものに変わり,また便利さと引き換えに伝統の技術が失われていく可能性もそう遠くはないのではなかろうか.今後さらに現地調査を行い,その実態を明らかにしたいと思うが,現時点においてこれらの記録を残しておくことは有意義なことと思われる.最後に本研究に当り,その機会を与えて下さった名古屋女子大学生活科学研究所長広正義博士,また終始懇切な御指導を賜った岐阜大学教授中野刀子先生に深く感謝の意を表すると共に,親切な御助言を賜った名古屋女子大学教授栃原きみえ先生,資料を提供下さり懇切な御助言を頂いた名古屋女子大学教授佐藤正孝,平野年秋の両先生,および国立民族学博物館助教授大丸弘先生に対し厚く御礼申し上げる次第である.なおこの研究は,本学生活科学研究所の助成によって行ったものである.
- 1981-03-31
著者
関連論文
- 明るさと縞模様について(第2報)
- 東南アジアにおける民族服の研究(第8報) : 北部タイ山地民族 ラワ族の生活習俗と衣装
- 女子の体型とスカートに関する研究(第5報)
- 女子の体型と被服構成に関する研究(第4報) : 体幹についての研究
- 女子の体型と被服構成に関する研究(第3報) : 体幹についての研究
- 女子の体型と被服構成に関する研究(第2報) : 体幹についての研究
- 女子の体型と被服構成に関する研究(第1報) : 体幹についての研究
- 女子の体型とスカートに関する研究(第6報)
- 女子の体型とスカートに関する研究(第4報)
- 東南アジアにおける民族服の研究(第3報) : タイ国メオ族の民族服飾
- 北設楽地方の婚礼とその衣裳 : 富山村・豊根村・津具村
- 東南アジアにおける民族服の研究(第7報) : 北部タイ山地民族 カレン族の生活習俗と衣裳
- 東南アジアにおける民族服の研究(第2報) : タイ国アカ族の民族服飾
- 東南アジアにおける民族服の研究(第1報) : タイ国山地民族の生活と衣裳
- 北部タイ及び中国貴州省苗族の服飾調査から
- 東南アジアにおける民族服の研究(第6報) : 北部タイ山地民族 ラフ族の衣装
- 東南アジアにおける民族服の研究(第5報) : 北部タイ山地民族 リス族の衣裳
- 東南アジアにおける民族服の研究(第4報) : 北部タイ山地民族 ヤオ族の衣裳
- 体幹部側面形態(シルエット)と体格について(第2報)
- ***の体幹における体型別体表形態の採取(第1報)
- 体幹部側面形態(シルエット)と体格について(第1報) : 体格示数による体格の分類
- 明るさと縞模様について(第1報) : 照度と距離の変化による