ゲルマン語における隠れた過去現在動詞二例について : それらのInactive起源を論じる
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概要
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従来の古ゲルマン語研究においては,14の過去現在動詞をゲルマン祖語に認めるのが,標準的な考えであると言ってよい。しかしながら,これまでかなりの学者が,これら14の明白に過去現在動詞と認められるもの以外に,いくつかの「隠れた過去現在動詞」がゲルマン諸方言に認められると論じてきた。それらのうち本稿が考察の対象とするのは,次のふたつの動詞である。 (1)古高ドイツ語 bibēn「震える,恐れる」 (2)古英語 eaþ, aþ(アングリア方言), eart(西サクソン方言)「(汝は)~である」 (二人称単数繋辞) (Dについては,Wackemagel(1907), Pokormy(1994), Meid(1971), Cardona(1992)などが,そして(2)については,Prokosch(1939), Cowgill(1960)などが,元々は過去現在動詞に相当する特性を持つ動詞であったと主張している。 本稿の目的は,これらの動詞が,Tanaka(2001a,forthcoming)で提案する非ブルークマン的な祖語再建モデルを採用した場合,どのように解釈できるか考察することである。特にTanaka(2001a)では,任意の印欧語動詞に関して印欧祖語での形態一意味クラスを推測する一般的方法を提案しており,その方法を用いて,これらの「隠れた過去現在動詞」の祖語における形態一意味特性を推定するのが本稿の課題である。 伝統的に認められている14の過去現在動詞は、本質的に言って,印欧祖語において*CoC-h_2e/th_2e/eという形態を持ち,非行為者的で静的な意味を現していた動詞(inactive動詞)が,固有の意味一形態特性を文献時代まで保持した動詞であると考えられる(Tanaka2000 参照)。本稿の「隠れた過去現在動詞」二例についても,同様の意味一形態特性を祖語において持っていたと示すことができるならば,上記の,伝統的枠組み内で隠れた過去現在動詞」の存在を示唆した学者たちの論は,本稿で仮定する異なる枠組みにおいても成り立つと主張できるであろう。
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