<学位論文要旨>物質経済からみたタケ群落の生態学的研究
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
第1章序論タケ群落では稈が地下茎によって連結されており,稈の更新は地下茎からのタケノコの伸長によってなされる。そして,新たに更新した稈は1∿2ヶ月以内に成長を終え林冠に達する。この様な更新特性は林冠の欠落部に依存する一般の極相林における更新様式とは著しく異なるものであり,生態学的に興味深いだけでなく,林産物を持続的に収穫できるという面からも有用な性質といえる。しかしながら,タケ群落に関しては純生産量,現存量,植生等の部分的な報告はあるが,他の森林タイプでなされているような生態系レベルでの包括的な研究は極めて少ない。そのため,タケ群落内において,物質のストックやフローを明らかにし,他の森林との比較研究を行うことが必要とされている。第2章マダケ群落の現存量と物質収支日本のマダケは1960年代に一斉開花し,地上部が枯死した。マダケ群落はタケ類の中でも最長の120年という開花周期を示すことが知られているが,開花・枯死から比較的短い期間の回復過程に関する報告がこれまであるのみで,回復様式を長期にわたり調査した例はない。そこで,これまでの報告例よりも成熟して蓄積量の多いマダケ群落に調査プロットを設け,稈の位置と胸高直径,地上部及び地下部現存量,リターフォール量,純生産量,土壌中の炭素蓄積量,地上部の維持・構成呼吸量,土壌呼吸量,総生産量等を測定した。測定期間中,新稈の平均胸高直径は毎年ほぼ同じ値であったが,旧稈の平均胸高直径と較べると常に大きく,胸高直径という面からみれば地上部はまだ完全には回復していなかった。しかし,新稈,旧稈および枯死稈の割合から,すべての旧稈が新稈と入れ替わる10年以内には稈の胸高直径分布は平衡状態になるものと推定された。調査地の稈の現存量は93.7t ha^<->1と,これまでのマダケ群落における報告値よりも大きく,更に7.45t ha^<-1> yr^<-1>程度の増加を続けているのに対して,枝と葉の現存量は開花枯死から20年を経た時点で平衡状態に達していた。また,地上部現存量は113.1t ha^<-1>であり,世界的にみてもタケ群落としては最大級であった。地下茎は地表下60cmまで分布し,地表下15∿30cmの層にはっきりとした分布のピークが見られた。細根の深度分布は地下茎よりも広範囲であった。地下茎と細根の現存量は合計すると47.4t ha^<-1>であった。O層の堆積量および鉱質土壌中の炭素蓄積量は6.2t ha^<-1>および85.8t C ha^<-1>であった。落葉量は5.84t ha^<-1> yr^<-1>であり,暖温帯と熱帯多雨林における落葉量の中間的な値であった。葉鞘の落下は年間で1.66t ha^<-1>に達し,量的に無視できない値であった。総リターフォール量は9.13t ha^<-1> yr^<-1>となり,日本の森林としてはかなり多く,熱帯多雨林における値の範囲に相当した。地上部純生産量は24.6t ha^<-1> yr^<-1>となり,同様な気候条件下にある他のタイプの森林よりも大きな値であった。気温と葉の呼吸速度の関係は指数関数で表すことができた。新稈の呼吸は稈が伸長成長を停止したばかりの6月に最も高かったが,稈の発生後最初の冬期以降,著しく減少した。しかしながら,それ以降は,少なくとも発生後49ヶ月までは加齢による呼吸活性の減少はわずかであり,呼吸活性は主に気温の変化に依存して変化した。これらの関係から,葉,稈,枝の維持呼吸量は47.2t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>,18.5t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>および2.0t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>と推定された。また構成呼吸量は葉が2.9t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>, 鞘が1.1t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>, 枝が0.7t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>, 稈が7.7t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>であった。土壌呼吸量は土壌全体で41.2t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>,O層を除いた場合31.1t CO_2 ha^<-1> yr^<-1>であった。以上の測定で得られた結果をもとに,マダケ群落内の炭素蓄積部位を,葉,枝,稈,地下部,O層,鉱質土壌の6つのコンパートメントに分け,コンパートメント間の物質収支を明らかにした。第3章モウソウチク群落の現存量と物質収支モウソウチクは日本に生育するタケ類の中で最大の種であるばかりでなく,世界的にみても地下茎が単軸分岐をするタケ類の中で最大級のものである。その群落高は20mに達するが,群落を構成する稈が素早く成長し,サイズ成長を終えるという特性は他のタケ類と同様である。モウソウチクはその経済的な価値のため人為的に植栽されてきた反面,日本では大型帰化植物としては唯一といってよい程の生態的な成功をおさめており,本来の植栽地から他の林地へと侵入し,分布面積を広げつつある。
- 1995-12-28
著者
関連論文
- 多様なタケの繁殖生態研究におけるクローン構造と移植履歴の重要性(Bambooはなぜ一斉開花するのか?〜熱帯から温帯へのクローナル特性と開花更新習性の進化を探る〜)
- 遺伝的多様性--その意味と重要性 (特集 Biophilia Special 「生物多様性」の最前線)
- P6-11 森林生態系における土壌生物多様性の包括的評価(ポスター紹介,6.土壌生物,2008年度愛知大会)
- 阿蘇地方および中国地方におけるヒゴタイEchinops setifer Iljinの現状(保全情報)
- 帝釈峡の植物相における絶滅危惧植物
- 米国における森林CO_2問題の研究動向
- 物質経済からみたタケ群落の生態学的研究
- 空間的遺伝構造と分化の図示 : その変化でgene flowを観る試み
- ホオノキ(Magnolia obovata Thunb. )のマイクロサテライト遺伝マーカーの開発
- ホオノキ野生個体群のgene flow
- 研究室訪問シリーズ(7)京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林生物学研究室
- ホンシャクナゲ実生のセーフサイトの推定およびマイクロサテライト遺伝マーカーによる実生バンクの遺伝的解析
- I.はじめに(第120回大会イブニングセミナー)
- 森林で花粉はどのように動いているのか(うごく森 4)
- スギ・ヒノキ混交林の林分構造
- マイクロサテライトマーカーで明らかになった低頻度出現種の更新プロセス(マイクロサテライトマーカーは森林科学に何をもたらしたか?)
- 京都府南部地域における竹林の分布拡大
- 森林の遺伝的多様性 (特集 生態系・生物多様性モニタリングの統合に向けて) -- (森林)
- 森林の遺伝的多様性をはかる(森をはかる)
- インドネシア,マランに見られるKyllingaの形態的多様性:その分類学的認知
- わが国における竹類の分布と生態 (特集 竹)
- 植物個体の物質収支モデルでmastingを考える
- コナライクビチョッキリ, ヒメクロオトシブミによる広葉樹の被害と光環境との関係について
- 地衣類の共生藻類TrebouxiaとPseudotrebouxia
- 北海道植物分類学野外実習報告
- 都市の植物個体群における遺伝的特徴の不均一性
- 遺伝子でみる森林樹木の繁殖・更新プロセス(遺伝子から読み解く森林)
- 花粉粒の直接遺伝解析法を用いたホオノキ訪花昆虫の送粉効率評価
- ホオノキ訪花昆虫の送受粉への貢献 : 花粉粒の直接遺伝解析による評価
- 林内透過度と林内煩雑度による都市近郊林の分類・管理指針 : 嵐山近郊の森林を事例として
- 平成2年台風19号による東紀州地方の森林被害
- 京都市内の広葉樹二次林でみられたクロバイとアラカシとの立地環境の違いについて(造林)
- 林床に生育する樹木の最適光合成曲線