LL における文学研究の一考察
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概要
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今日のLL教育において, 言語教育というレベルでは多くのことが語られているし, また語られてきた。しかし, LL教育は, 単に言語教育のみに限定されるべきものではなく, 更に広く, 文学をはじめとして人文・社会の諸分野の学習にも適用されるべきものであろう。このような人文・社会科学の分野におけるLLの利用については, わが国では今まで, library systemの立場からも, 論じられることが少なかった。LLのもつ多様で多面的な機能を考える時, これでは全く不充分であると言わざるをえない。特に, 大学レベルのLL教育において, これが欠如していることは, 全く遺憾なことである。今こそ, 音の識別, 日常会話の反復, 文型練習等に固執した従来の方法から解放されて, 別の次元から光をあてながら, 広範で多様な機能を備えているLL装置を, その本来の意味において利用する道を考えるべきではないだろうか。初等, 中等教育の場合は別としても, 大学レベルにおいては, 真剣にこの事を考えなければならないのではないだろうか。この論文では, 大学におけるLL教育の意味とLL装置の多面性を考えながら, 従来のLL教育で重点を置かれていた言語教育の方法を再検討しつつ, LLにおける文学の教育, 研究および鑑賞(諸科学の一分野としての)を提唱しようとするものである。従来, LL教育において主張されていたfour-phase方式, pattern practice等を全く無視したものではなく, むしろ, これらの方法を吟味, 認識した上で, 文学教育並びに鑑賞に適する道を見出そうとするものである。そのためには, laboratory workだけではなく, pre-laboratory work, post-laboratory workという前後の学習が一体とならなければならない。後者の二つの作業は一般に考えられている以上に重要なのである。その目標の具体的設定については, 種々, 論じられるだろうが, 概括的には当面, 次のような目標を, 段階的に考えることができるであろう。1.他人の語ることと書くものを理解すること(reception skillの涵養)2.学習者自身が語り, 書くものを, わかり易く他人に理解させること(production skillの涵養)3.言語固有のrhythm, stress, intonation等を会得すること4.外国語特有の発想形式を把握し, 文学作品, 言語を分析し統合すること。5.文学作品, 言語を理解, 把握して, その美しさを感じること。第1,第2の段階における理解comprehensionと, わかり易さintelligibilityは, four skillsの立場から考えても, 当然, 相互に密接な関係があり, かつ我々の方式の基礎となるものである。第3は, 文学作品や言語を理解する場合, 特に音声の面から考えて重要な点である。第4の文学作品等の分析, 統合は, 言語学的観点に充分な注意を払いつつ, 行なわれなければならない。この中には, 対象となっている言語に特有な思考法を理解することも, 当然含まれている。第5の感性に対するものは, 言語, 文学作品を学ぶことの最終目標の一つに考えられるものであろう。いわゆる「役に立つ英語」は, 英語教育の目標の一面にしかすぎないのであり, 我々は, この事を認識, 包含した上で, もう一つ別の次元にある目標を設定するのである。言語の美を感じとることは, 最終的には, 言語に対する個々人の感受性によるのであるが, これは学習によって, かなりの高さまで達することができるであろう。このような目標に達するためには, 詩を題材として用いることが考えられよう。言語の美しさは, どの国語においても, まず詩を通して会得されるであろう。特に英詩においては, iambic pentameter(弱強五歩格)という典型的な韻律を初めとして, 種々の韻律があるので, rhythmの上からは, 比較的容易に, 我々の目標に近ずく材料とすることができる。こここではEdgar Allan Poe(1809∿49)の"Annabel Lee"を具体的な例として挙げてみることにする。なお, この小論は1973年7月23日, 福岡大学で行なわれた第12回語学ラボラトリー学会(LLA)にて研究発表した内容を基礎として加筆したものである。
- 湘南工科大学の論文
- 1975-03-31
著者
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