養護学校における自閉児の指導の内容と方法の研究 : U児の事例を通して
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概要
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DSM-IIIの定義において,自閉症は精神病ではなく汎発達障害として位置づけられた。しかしだからといって自閉症児が発達するためにはどのような援助をなす事が有効なのかが明示されているわけではない。現在,日本の情緒障害教育では自閉症児のみならず広範な自閉的行動を示すいわゆる「自閉児」を主に指導してきた。自閉児教育は歴史的に見ても多くの指導の内容や方法が工夫されてきた。しかし,約20年の自閉児の指導史のなかで,自閉児教育は大きな変遷を繰返し,様々な成果を上げてきたが,未だ決定的と言える自閉児教育法は存在しない。こうした自閉児教育の内外の状況をふまえ本研究では東川養護学校に入学した一自閉児の発達を追い,その背景となった指導のあり方との関係の分析を試みた。本児の発達はPiaget, J.の言う感覚運動期の水準にあり,多動で,表出言語をほとんど有しないなどの発達上のつまづきを持っていた。指導の結果,2学期の中〜後半には多動の大幅改善,表出言語の増加,模倣活動の増大をみた。このような本児の発達と指導方法,内容の関係について考察すると,次のようにまとめられる。(1)感覚運動期の発達段階にある自閉児に対しては,人,時間,空間,教材面での構造化した環境を準備する事が,重要である。日課はある程度パターン化していることが先の見通しをもたせ,自主的で積極的な行動を形成し,安定した精神状態で学校生活をすごさせる要因となる。(2)指導内容としては質・量ともに豊かな粗大運動を中核とする事が有効であった。構成された粗大運動を毎日する事が身体意識,運動コントロール,微細運動能力を発達させていく基礎となるだけではなくemotionalな面での発達においてもきわめて有効な指導法と考えられた。また,自閉児の模倣活動は認知的な発達面からとらえて指導がなされた研究が多いが,本研究から「模倣」は身体的・情緒的・社会的な総合的な活動ととらえて指導すべきことが必要だと考えられた。
- 1987-03-15