『憐憫の孤独 』: ジオノ作品の原風景
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概要
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ジオノの初期の作品『丘』(1929),『ボミューニュの男』(1929),『二番草』(1930),『大群』(1931)はジオノの生まれ生活した南仏オート・プロヴァンスの自然や人間を描くことに成功しているが,それらの作品は地方生活の一断面を明るみに出すにとどまっている。『世界の歌』(1934)や『喜びは残る』(1934)とともにジオノの小説世界は拡大し豊穣になってくる。 20の短編から成る作品集ともいえる『憐憫の孤独』(1932)は,小説のあるべき姿を模索していたジオノの創作態度のいわば移行期に書かれた作品である。それまでの小説があまりに人間を文学作品の中心に据えつけてきたことをジオノは反省し,自然のなかで人間を正当に位置づけることの必要を痛感する。長短さまざまの20の作品は,猛威をふるう自然界のなかで人間はあまりに卑小であるが,そうした自然界に人間は時としてある種の歌を聞き取ることができ,文学はその世界の歌を表現する必要がある,といったことを示している。 初期の4つの作品の執筆のかたわら書きためられたこの『憐憫の孤独』は,ジオノの小説世界の飛躍的発展を可能にした蝶番的な存在であると位置づけることができる。
- 信州大学の論文