生涯木を植え続けることによって荒れ果てた地方を再生させた老人の物語は,作者ジオノが子供時代に父親とドングリの実を植えたという体験に根ざしており,木を植えるという喜びは彼にとってきわめて親しいものであった。生きる喜びは傑作『喜びは残る』のなかで縦横無尽に展開されたテーマである。この架空の物語を書くことによってジオノは読者に森の大切さを納得させる。虚構の物語が事実より雄弁なことがある。それが小説家の仕事である。
信州大学農学部森林科学科