『喜びは残る』における死の意義
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概要
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『喜びは残る』の作者ジオノは人間が生まれ死ぬのはごく当たり前のことだから死を異常なものではなくむしろ自然な現象と考えていた。しかし,自殺についてはいささか事情が異なる。生きていく喜びの欠如,何らかの価値観の喪失,こうしたことが自殺の原因になりうる。『喜びは残る』では4人の登場人物が自殺する。エレーヌの夫とシルヴは何の喜びもないグレモーヌ高原の住人たちに特有の病気が嵩じて自殺し,オロールは喜びは見出したがそれを持続させることができず死を選ぶ。高原の住人たちに生きる喜びを教えてきたボビはジョゼフィーヌとの情交を重ねるうちに自分には穏やかな喜びは不可能になっていくのを痛感する。もはや高原にいる意味がなくなったと判断し高原をあとにしたポビは激しい嵐のなかで死ぬ。反対に動物や植物に喜びを見出し精彩あふれる生活を取り戻していった住人たちも存在する。この物語では,4人の死者がでたにもかかわらず,生きる喜びの種は確実にまかれたということが確認される。死者たちも世界の運行に異常なことは何もなかったかのように参加する。寂しげだったグレモーヌ高原に鹿が遊び,羊が啼き,小鳥や小動物が徘徊し,花々が咲き乱れるようになったのである。
- 信州大学の論文