戦後の家庭科教育の変遷: 被服教育を中心として(第4報)
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概要
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以上,被服教育の内容を社会の状況との関連においてみてきたが,この時期の被服教育の特徴をまとめると,次の諸点が上げられる。l.小学校の家庭科は,昭和52年版で被服・食物・主居と家族の3領域となった。被服領域の目標は,5学年で保健衛生的な着方を理解させ,6学年で目的に応じた日常着の着方及び選び方を理解させることとなった。2.中学校では 昭和52年版の技術・家庭科の目標として工夫し創造する能力の養成が強調された。内容は女子は家庭系列(被服1・2・3・食物1・2・住居・保育)の中から5領域と技術系列(木工・金工・機械・電気・栽培)のうちから1領域を含めて7以上の領域を選択して履修させることとなり,被服領城の目標は,昭和44年は着装をくふうする能力,昭和52年は衣生活を快適にする能力の養成とされた。製作する被服について材料及び製作方法を学習するとともに活動と被服との関係及び着装について考えさせるようになった。3. 高等学校の家庭科の目標は,昭和53年版は職業に必要な能力と実践的態度の養成が強調された。「家庭一般」では家庭生活を合理的に営み,その充実向上を図る能力と実践的態度を育てることに主眼がおかれた。内容は,被服領域では被服の機能と着装が第一に取り上げられ,日常着の着用目的と着装,保健衛生的機能と着装及び服装に関する作法について学習する。また衣生活の計画の中で,被服管理の合理化のための省資源・省エネルギー・節水などについて考えさせるようになった。4.高等学校の昭和45年版で,科目「意匠」が「服飾デザイン」と名称変更され,昭和53年版から服装史もこの中に含まれるようになった。「被服」の中でも被服のデザイン及び着装について深く学習するようになり,着用目的に合わせて適切に被服を選択・着用し衣生活を豊かにする能力を身につけることに重点がおかれた。5.教育の現場では,衣生活のくふう,着方,選び方についての研修や指導がなされるようになったが,その例は少なく,創るよろこびを「製作」のみに求めさせていたといえる。これらの経緯と社会の衣生活の状況をふまえて,これからの被服教育を社会の変化に対応し生活を快的に美的にしていくためには,小・中・高校の各発達段階に応じて,被服の機能と着装についての学習に多くの時間をかけ,児童・生徒の興味・関心を学習に結びつける必要がある。そのためには,まず児童・生徒の日常の衣生活を見つめさせることに重点をおき,自らの考えで被服を選び,美的で快的な衣生活を送るための指導が行われなければならない。指導者は知識より思考を重視し場合に合った服装について考えさせる中で索材についても触れるというように,順序や指導の方法を転換させることによって,総合的に被服を理解させることにつとめることが必要である。着る物である被服一つ一つについての知識や,それを上手に作り上げる縫製技術に重点をおいてきた今までの指導の在り方を改めて,生活している児童・生徒に目をやり,その生活をみつめさせ,考えさせる学習を多く取り入れていきたいものと考える。被服は,それを身につけている人間の判断力を投影する。みだしなみがよいということは,その場,その時,その人にとってふさわしい身なりを整えるということであり,自分の立場,役割をわきまえている人の生き方に通じるものであるということを改めて考えるものである。
- 1994-12-30
著者
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