土壊の活性ケイ酸と植物
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概要
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土壌,植物中のケイ酸ケイ素は地殻や土壌の大部分を占めている.そして酸素と親和性が強く,ケイ酸あるいはケイ酸塩の形態をしており,粘土の主要構造となっている.土壌溶液中のケイ酸は,モノケイ酸の形をしており,低い溶解度のため,土壌溶液中のケイ酸の濃度は30~40ppmにすぎない.その溶解度は温度やpHの影響を強く受ける.そして土壌中のケイ酸は繰り返し吸収除去せられても一定濃度を保持しようとする能力がある.このように土壌中には十分量の可溶性ケイ酸が存在しているので,植物体中のケイ酸含量は,植物のケイ酸吸収能や要求性に依存している.1.干拓地水田土壌中の活性ケイ酸の動向1)イネの収量に及ぼす土壌中の活性ケイ酸の影響開田後の年次の変化に伴って,表土の活性ケイ酸量が減少するとともに,イネ茎葉中のケイ酸含量が低下し,イネの収量も明らかに減少の傾向を示した,2)土壌生成にともなう活性ケイ酸の動向児島湾干拓地の未溶脱の土壌中のケイ酸の溶脱は,酸性溶脱が主体をなしており,アルカリ性溶脱はわずかであった.3)年次の経過にともなう塩類,可溶性ケイ酸量および土壌pHの変化年次の経過にともなう,可溶性ケイ酸量および水溶性ケイ酸量の減少の動向は,土壌pHの低下の傾向とよく似ていた.しかし土壌の飽和溶液の電気伝導度で示した,干拓後の年次の経過にともなう土壌塩類の変化とは全く異なった傾向が認められた.4)酸性硫酸塩土壌における活性ケイ酸量の変化児島湾干拓地の酸性硫酸塩土壌では,酸化性イオウの酸化によって,土壌pHがいちじるしく低下し,土壌中の活性ケイ酸量も顕著に減少した.酸性硫酸塩土壌では,採取直後に熱風乾燥すると,ほとんど酸性化しないが,長期間放置するか又は常温でインキュベーションすると強酸性になる.このようにこの土壌は乾燥方法によって土壌pHが変化する.児島湖底土も酸性硫酸塩土壌であって,土壌pHが乾燥方法やインキュベーションによっていちじるしく低下し,土壌pHの低下につれて,活性ケイ酸量が顕著に低下した.5)水田土壌からのケイ酸の溶脱量と作物による収奪量の比較90l容のライシメーターに100kgの干拓地の未溶脱土壌を入れ,除塩した後,脱塩水と雨水でイネと大麦を栽培した.そして排水中に溶脱したケイ酸量と作物に収奪されたケイ酸量を比較した.土壌からのケイ酸の溶脱量は,イネや大麦が収奪したケイ酸量に比べると極めて低い値であった.2.植物界におけるケイ酸植物の分布同一土壌に生育した.コケ植物から被子植物までの175種の植物について,ケイ酸植物の分布を調べた.植物の無機組成の中でもっとも含量の幅が大きかったのはケイ素とカルシウムであった.全植物のケイ素の平均は0.6%であり,Si/Caモル比は1.1であるので,それ以上を一応ケイ酸植物の目安とした.ケイ酸植物はケイ酸含量が高いだけでなく,カルシウムとホウ素含量が低い傾向を示した.ケイ酸植物のケイ素含量の平均は1.96%であり,非ケイ酸植物のそれは0.25%であるので,ケイ酸植物のケイ素含量は非ケイ酸植物のそれの約8倍にあたる.ケイ酸植物はコケ植物およびシダ植物のヒカゲノカズラ類,トクサ類およびシダ類の一部の科,そして被子植物の単子葉類のイネ科,カヤツリグサ科の植物に認められた.またケイ酸含量が高いが,カルシウム含量も高い中間型にウリ科,イラクサ科の植物が存在した.3.ケイ酸吸収特性植物によるケイ酸の吸収機作とケイ酸含量との聞には密接な関係がある.たとえば代表的なケイ酸植物であるイネは顕著に高いケイ酸を含んでおり,その吸収機作はエネルギーに依存した積極型吸収である.そしてそのケイ酸吸収能は根部に局在しており,根部を切断するとその積極吸収能は消滅する.一方,代表的な非ケイ酸植物のトマトのケイ酸吸収は,抑制型ないし排除型であって,そのケイ酸吸収は根で抑制されている.それは根部を切断した場合,地上部におけるケイ酸吸収が,わずかながら増加の傾向を示していることからも明らかである.一方,キュウリは中間型であって,そのケイ酸吸収は消極型吸収であるが,トマトのような吸収排除型ではない.キュウリは培地中に高濃度のケイ酸があるときは,多量のケイ酸を吸収する,その場合キュウリのケイ酸含量は3~6%とケイ酸植物に匹敵するほどの高さになる.しかしカルシウム含量はつねにケイ素含量よりも高い.4.ケイ酸と植物生育1)ケイ酸植物代表的なケイ酸植物のイネの場合,生育の初期からケイ酸添加の効果が現れる.窒素肥料の多量施肥条件下において,ケイ酸の供給は,倒伏や細菌性の病気に対する抵抗性を増す.それはまた群落中の葉身を直立させて,相互遮へいを少なくし,乾物生産量を増加させる.2)非ケイ酸植物トマトの場合,ケイ酸欠乏症は第一花房開花期までは認められないが,その後新葉の奇形,下位葉の枯れ上がり,花粉稔性の低下などの特徴的な異常症状が現れ,ケイ酸を供給することでそれは回復した.3)中間型植物キュウリのケイ酸欠乏に対する生育反応は一面トマトに似ている.トマトのようにキュウリの場合も,ケイ酸欠乏症は生育の初期には認められないが,生殖生長期になると新葉の奇形や花粉稔性の低下などの特異的なケイ酸欠乏症状が現れる.同じことがケイ酸欠乏トマトの生殖生長期にもみられる.しかしトマトと異なり,キュウリは高濃度のケイ酸培地中では,ケイ酸植物に匹敵する高いケイ酸含量を示し,植物生育,収量にケイ酸の効果が認められた.5.イネの生育に対するケイ酸とカルシウムの相互作用イネの葉身中のケイ酸含量は,多量のカルシウムの供給によって,低下の傾向を示したが,収量は若干増加した.また土壌に大量のカルシウムを添加しても,ケイ化細胞の形成機能には影響しなかった.6.植物の病害抵抗性に及ぼすケイ酸の効果ケイ酸欠乏のキュウリはしばしばウドンコ病,ツルワレ病のような病気にかかり易い,そして多量のケイ酸の吸収はそのような病気に対する抵抗性を増加した.同じくケイ酸欠乏のイネは,イモチ病,ゴマハガレ病のような病気にかかり易い.そして多量のケイ酸の添加はイネの耐病性を増した.7.植物の塩害に対するケイ酸の効果キュウリとトマトに300-3000ppm濃度のNaCl溶液を海水で与えた.ケイ酸の添加はキュウリやトマトの塩害を軽減した.キュウリ,トマトともNa,ClおよびMgの過剰吸収はケイ酸の添加によって大幅に抑制された.またキュウリ,トマトの生育は低濃度の海水(Nacl300ppm)の供給で促進された.8.ケイ酸植物の特性とゲルマニウム植物は低濃度のゲルマニウム酸の吸収で生育は抑制され,害症状が発現した.しかしゲルマニウムに対する感受性は植物種の間で異なっていた.ゲルマニウムに対する感受性の程度は,ゲルマニウム吸収性と一致していた.植物のゲルマニウム吸収性はそれら植物のケイ酸吸収性と類似していた.ケイ酸の添加によって,ケイ酸植物のイネはゲルマニウム害が軽減されたが,非ケイ酸植物のトマトの場合はほとんど効果がなかった.ゲルマニウムの生理作用は,ケイ酸のそれとは異なっているが,吸収の面では両者は類似の機能が存在することが推定された.ケイ酸は地表に豊富に存在してお1),植物はそのような環境下で進化してきた.そのためか植物とケイ酸の間には密接な関係がありながら,ケイ酸は目立たぬ存在でもあった.これまでみてきた土壌中の活性ケイ酸の動向,植物のケイ酸に対する特性は,今まで考えられていた以上に,土壌機能に占めるケイ酸の重要性,植物の生育に対するケイ酸の役割が大きいことを示している.農薬,化学肥料の多用が問い直されている近年の農業にとって,ケイ酸の重要性はますます増すと考えられる。
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