近交退化と雑種強勢に関する実験的解析
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概要
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近交退化と雑種強勢の解析,原因の追求は育種上重要な研究課題である.近交退化と雑種強勢の原因については幾つかの仮説が提唱されているが,その原因,発現機構については依然として不明の部分を残している.本研究は,鳥類を代表する実験動物として注目され,かつ近交退化と雑種強勢現象が著明に発現することが明らかにされているニホンウズラを研究材料に用い,近交退化と雑種強勢の解析を試みた. 本研究に用いたニホンウズラは岡山大学農学部で無作為交配群によって維持された閉鎖集団から得られたものである.近交退化の研究には,閉鎖集団を基礎集団として兄妹交配によって作出された近交系を用い,その対照として無作為交配群を用いた.雑種強勢の研究には,兄妹交配を3世代以上継続した近交系間交雑F1を用い,近交系,無作為交配群との対比において検討した.取り上げた形質は受精率,孵化率,育成率,性成熟日齢,体重,産卵率,入卵率,卵重,生存度指数(受精率×孵化率×育成率),適応度指数(生存度指数×産卵率×入卵率),胚死亡率である.遺伝的荷重は-logeS=A+BFで算出し,雑種強勢効果は(F1-Pm)/Pmの式によって評価した. 近交系では近交世代の進行に伴い,維持系統数と家系数は急激に減少し,5世代の作出は困難となった. また,近交に伴い生産諸形質は全般にわたって退化がみられ,特に育成率,生存度指数,適応度指数,雌6週齢体重,孵化率の形質では退化が著しかった. 本実験に用いたウズラ集団での1接合体当たりの致死相当量は4.946~5.784となり,一方荷重比(B/A)は5.902であった.胚死亡率はいずれの発育段階においても近交系が無作為交配群に比較して高く,特に発生初期での胚死亡率は近交に伴い顕著に増加した. 近交系閲交雑F1では近交系に比較して,取り上げた生産諸形質はいずれも優れており,無作為交配群に近似した値を示した.雑種強勢効果は適応度指数,生存度指数,孵化率,育成率の形質で高い値が確認された.交雑F1では近交系に比較して胚死亡率が低く,特に発生初期と死ごもり期においてその差は顕著になることが確認された. さらに,近交系と交雑F1における初期胚について,発育,組織形態,生化学の面から検討を加えた.その結果,近交系では交雑F1に比較して胚発育の遅延,胚組織の分裂細胞数の減少と分裂指数の低下,胚のNA量・RNA量・タンパタ量の減少,3H-チミジン,3H-ウリジンの胚への取り込み量の減少が認められた. これまでの実験結果から,近交退化と雑種強勢に関する原因と発現機構に関する諸現象は発生過程の初期段階において近交系と交雑F1の差として発現することが確認された. 今後は胚発生過程の初期段階に焦点をしぼり,分子遺伝,発生遺伝,発生生理遺伝,発生生化学遺伝の立場からの検討が加えられ,その詳細が一層明確になることを期待したい。
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