日本語の主格を表示する助詞の階層的分布
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
日本語の格を標示するといわれている助詞,ハ・ガ・ノは,これまでの日本語分析の中でそれぞれの最も顕著な文中機能によって分類されてきた。しかし,日本語の統語構造と助詞付加が必ずしも英語のような述語項構造の配列規則や統語機能と整合性を係つものではないことから,これらの助詞分類と普遍文法的方向をめざす統語構造,意味構造の分析とが必ずしも一致していない。日本語では,上代ですでに,起源的に注意を喚起するための強調を意味する助詞「ハ」,「ヲ」がそれぞれ主題・主語,動詞の目的語を表示する用法として定着していたが,同時にこれらの用法を助詞無しで行う方法も平行して存在していた。「ガ」は,「君が代」に見るように,元来属格を表示する助詞だったが,用言に連用成分が連なって構成する日本語の統語構造の最小の基本単位(文または節)の中で,ハとは異なる情報価値を拒う主語を表示する用法として定着してきている。「ノ」は,節の埋め込み構造を含まない関係節の中で「ガ」と平行して主語を表示することができる。また,属格表示の「ノ」で連接され,節と同じ意味価値を持つ名詞句の中で,用言と等価の名詞句(意味論的に述語的機能を内包できるもの)の主語を表示することができる。また,ノよりもさらに原初的格表示として,主題・主語が助詞を付加されないで提示されることや,漢字のみの名詞句羅列表現の中に助詞を付加しないで主語を意味しているものがあることも事実である。これらのことから,日本語の主語機能の表示は特定の助詞が唯一的に行うのではなく,統語構造の階層によって異なる助詞が行うと考えた方が有効である。
- 石川県農業短期大学の論文
- 1997-12-15
著者
関連論文
- 英語における不定詞の主語を表わす形態の起源について
- "HELP+(NP+)不定詞"の構文について
- 日本語格助詞の文法論的位置づけ : 井上和子の「変形文法と日本語」における「格」
- C.Fillmoreの格文法 : 日本語「格」との文法論的関連
- 大学英語教育改革の土壌
- 日本語の主格を表示する助詞の階層的分布
- APPOSITIVEの定義と統語論的意義
- 日本語の統語構造と主要格範疇 : 主格,対象格,主題
- 知覚動詞と補文形態の選択