悪性リンパ腫寛解後の経過観察中に特発性脾破裂をきたし, 脾臓摘出術により救命しえた糖尿病透析患者の1例
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
71歳,男性.糖尿病性腎症を原疾患とする末期腎不全のため維持透析を開始.5か月目に特発性脾破裂を発症した.合併症として甲状腺機能低下症,C型慢性肝炎,閉塞性動脈硬化症,既往に悪性リンパ腫に対する化学療法治療歴と2度の大腸癌の手術歴があった.透析時にヘパリンとエリスロポエチンが,閉塞性動脈硬化症に対して抗血小板剤が投与されていた.64歳初発,67歳再発した悪性リンパ腫発症時に脾腫を認め,治療後縮小.脾破裂の3か月前のCTでは脾腫の増大傾向はなく,リンパ腫寛解と判断していた.全経過を通じ巨大な脾腫を呈した時期はない.某年11月11日覚醒時に腹部膨満,下肢のしびれ,脱力を自覚し,救急外来を受診.BP 85/47 mmHg,HR 116回/分,Hb 6.4 g/dL,腹部CTで脾臓の血腫と腹腔内出血を認めた.脾破裂による出血性ショックと診断しICUへ入院.輸血によりバイタルサインが安定したため慎重に経過観察した.しかし翌日,貧血の進行とCTで血腫の増大を認めたため,第3病日に脾臓摘出術を施行した.術後経過は良好で,第28病日に軽快退院した.摘出した脾臓の病理学的検討では,うっ血所見のみで腫瘍細胞や血管破綻像・アミロイドーシス・ペリオーシスは認めなかった.脾門部の動脈にアテローム硬化があるが,明らかな血栓症や血管閉塞はみられなかった.患者に外傷の既往はなく,脾腫を背景とした特発性脾破裂と診断した.特発性脾破裂(非外傷性脾破裂)は極めて稀な病態である.ウイルスやマラリアなどの感染症による脾腫,腫瘍,ペリオーシス,血管炎,脾梗塞など原因疾患は多岐にわたり,多くは急性腹症で発症し出血性ショックを呈する.維持透析患者では過去に12例の報告があり,ヘパリンなどの抗凝固剤の使用や腎性貧血を合併しているため短時間で生命に危険が及ぶ可能性がある.迅速に診断し,外科手術を含めた治療を行う必要があると考えられる.
- 2009-02-28
著者
-
三輪 高也
名古屋記念病院外科
-
坂本 いずみ
名古屋記念病院腎臓内科
-
木村 敏樹
名古屋記念病院腎臓内科
-
榊原 雅子
名古屋記念病院腎臓内科
-
草深 裕光
名古屋記念病院腎臓内科
-
村上 弘城
名古屋記念病院消化器外科
-
西尾 知子
名古屋記念病院病理部
-
草深 裕光
名古屋記念病院総合内科
-
草深 裕光
名古屋記念病院
関連論文
- 骨盤後腹膜に発生した良性神経鞘腫の1例
- 腹腔鏡手術使用機器の部品脱落事例からみた消化器外科手術における危機管理(全般11, 第60回日本消化器外科学会総会)
- Dubin-Johnson 症候群に合併した大腸動静脈奇形の1例
- 新鮮外傷に対する閉鎖療法と従来療法の比較検討(第105回日本外科学会定期学術集会)
- 異所性肝細胞癌破裂の1例
- 悪性リンパ腫寛解後の経過観察中に特発性脾破裂をきたし, 脾臓摘出術により救命しえた糖尿病透析患者の1例
- 高齢女性の腎 Mixed epithelial and stromal tumor (MEST) の1例
- 東海支部教育セミナー(第6回) : 発熱・腰痛が半年間持続する56歳の男性
- OP-116-4 夜間救急受診患者に対するチャートレビュー・システムにおける外科・外傷医の重要性について(救急-1,一般口演,第110回日本外科学会定期学術集会)
- OP-277-5 透析患者の手術例の検討(周術期管理-10,一般口演,第110回日本外科学会定期学術集会)
- 甲状腺 carcinoma showing thymus-like differentiation (CASTLE) の1例
- P-1-40 保存的治療にて軽快した長期透析患者の3a型膵損傷の1例(胆・膵 症例1,一般演題(ポスター),第63回日本消化器外科学会総会)
- 小腸アニサキス症により絞扼性イレウスをきたした2例
- 大腸穿孔58例における術前予後不良因子の検討
- 緊急手術を行った大腸穿孔58例の検討
- 初期臨床研修での外傷教育プログラムの実践とその意義 : 2次救急医療施設での取り組み
- P-1-632 当院の直腸癌手術症例(Stage IIおよびIII)に対する放射線化学療法の検討(大腸・肛門 他・化療,一般演題(ポスター),第62回日本消化器外科学会定期学術総会)
- DP-131-7 当院における外傷患者への破傷風対策と破傷風に関する最近の文献的考察(第107回日本外科学会定期学術集会)
- V-3-1 エピネフリン持続脾動脈注入下に腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した遺伝性球状赤血球症の一例(肝3,ビデオセッション3,第61回日本消化器外科学会定期学術総会)
- コハク酸ヒドロコルチゾンが重篤なアナフィラキシーショックを来した外科術後の1例
- 膵原発neuroendocrine cell carcinomaの1例
- ステロイド治療中に下腿の化膿性筋炎を発症した透析患者の1例
- 急性肝不全を呈したのち自然消失した術後門脈血栓症の1例
- 十二指腸球後部潰瘍にて発症した糞線虫症に伴う難治性潰瘍出血の1例
- 肝細胞癌に対するラジオ波焼灼療法後に肝外進展をみた2例
- 術後に重篤なsyndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormoneを合併した膵頭部癌の1例
- P-2-514 イマチニブにより小腸浮腫からイレウスを合併した巨大直腸GISTの1例(GIST5,一般演題(ポスター),第63回日本消化器外科学会総会)
- SF-025-2 当院における外科の視点からみた医療安全対策の試み : 自作医療事故ビデオによるワークショップと患者参加型医療事故防止の取り組み(第108回日本外科学会定期学術集会)
- P-1-300 肝癌術後にリンパ節転移切除など複数の転移巣切除術を行い予後延長が得られた1例(肝癌 再発3,一般演題(ポスター),第62回日本消化器外科学会定期学術総会)
- 小児外傷性十二指腸破裂の2例
- 外傷患者の破傷風対策に関する検討
- 名古屋記念病院
- 基本的臨床技能の教育について
- 臨床報告 コハク酸ヒドロコルチゾンにより重篤なアナフィラキシーショックをきたした膵癌手術後の1例
- 肝異物性肉芽腫の1例
- 術前の画像で肝細胞癌と診断した肝原発MALTリンパ腫の1例
- PS-181-6 当院ERにおける救急トリアージ・システムの構築とその成果(PS-181 ポスターセッション(181)救急・外傷-2,第111回日本外科学会定期学術集会)
- 術前の画像で肝細胞癌と診断した肝原発MALTリンパ腫の1例
- 頸部痛と構音障害にて来院した Lemierre 症候群が疑われた1症例
- 早期胃癌に併存したサルコイドーシスの1例
- 大腿深部膿瘍をきたした閉鎖孔ヘルニア嵌頓穿孔の1例