TRPチャネルと痛み
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
TRPチャネルは6回の膜貫通領域を有する陽イオンチャネルであり,4量体として機能すると考えられている.また,大きなスーパーファミリーを形成し,哺乳類では6つのサブファミリーに分かれている.カプサイシン受容体TRPV1は1997年にクローニングされ,感覚神経特異的に発現し,カプサイシンのみならず私達の身体に痛みをもたらすプロトン,熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能することが,TRPV1発現細胞やTRPV1遺伝子欠損マウスを用いた解析から明らかにされた.さらに,TRPV1は炎症関連メディエイター存在下でPKCによるリン酸化によってその活性化温度閾値が体温以下に低下し,体温で活性化されて痛みを惹起しうることが分かった.このTRPV1の機能制御機構は急性炎症性疼痛発生の分子機構の1つと考えられている.カプサイシンは逆説的に鎮痛薬としても使われているが,その作用メカニズムの一つとしてTRPV1の脱感作機構が考えられている.痛みを惹起する刺激(温度刺激,機械刺激,化学刺激)のうち,温度刺激による痛みはおよそ43度以上あるいは15度以下で起こるとされている.TRPV1は初めて分子実体の明らかになった温度受容体であり,現在までに8つの温度感受性TRPチャネルが報告されている.侵害刺激となる温度によって活性化するTRPV1,TRPV2,TRPA1は侵害温度刺激受容に関与するものと思われる.感覚神経に発現する他の温度感受性あるいは機械刺激感受性TRPチャネルも侵害刺激受容に関わる可能性が考えられている.これらの侵害刺激受容TRPチャネルは,新たな鎮痛薬開発のターゲットとして注目される.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2006-03-01
著者
-
富永 真琴
自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)細胞生理研究部門
-
富永 真琴
自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター
-
富永 真琴
自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター細胞生理部門
関連論文
- セミナー室 味覚・嗅覚受容体研究の最前線(5)酸味受容のメカニズム--オフ応答を司る分子と生物学的意義
- TRPチャネルとバリア機能 (特集 痒みのメカニズム アップデート)
- カプサイシン受容体TRPV1 (特集 「痛み」の研究と治療の最前線)
- 侵害刺激受容に係わるtransient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1)及びtransient receptor potential ankyrin 1 (TRPA1)の活性化,制御メカニズム
- 哺乳類における温度受容の分子機構
- TRPチャネルと侵害刺激受容 (第1土曜特集 難治性疼痛と闘う--研究と治療の最前線) -- (痛みを切る--根底にある分子メカニズム)
- 温度・辛み・酸味センサー:TRPチャネルの多様性 (特集 感覚センサー--生物が外界環境を感じる能力を探る)
- アレルギー疾患における温度感受性TRPチャネルの役割 (特集 アレルギー疾患と自律神経)
- 細胞膜温度センサー--温度を感じる分子たち (特集 細胞感覚とセルセンサー)
- 気道における温度感受性TRPチャネルの機能
- 消化管におけるTRPV1の発現と機能
- TRPチャネルと痛み
- 痛みの受容メカニズム
- 学術 基礎医学から 温度受容のメカニズム
- 温度受容の分子機構 : ―TRPチャネル温度センサー―
- APP-083-PM 膀胱上皮細胞はTRPV4チャネルを発現し機械伸展刺激に応答する : 蓄尿時膀胱伸展におけるTRPV4を介した膀胱上皮からの求心性伝達の解明(総会賞応募ポスター,第97回日本泌尿器科学会総会)
- 酸味受容のメカニズム : オフ応答を司る分子と生物学的意義
- PROFILE
- 消化管の動きを調節する分子センサー
- 痛みとブラジキニン受容体 : 侵害受容器における符号変換と炎症における受容体発現変化
- 2P032 ゼルニケ位相差像の単粒子解析による非選択的カチオンチャネルTRPV4の立体構造(蛋白質(構造・構造機能相関),ポスター発表,第45回日本生物物理学会年会)
- APP-058 新規ディバイス排尿用代謝ケージを用いたマウス排尿における各種パラメーターについて : 野生型マウスとTRPV4ノックアウトマウスとの比較(総会賞応募ポスター,第99回日本泌尿器科学会総会)
- 酸味および辛み受容のメカニズム
- TRPチャネルによる侵害受容機構
- TRPチャネルと感覚 : 痛みと温度感覚に焦点をあてて