高血圧・腎障害とPGD_2/L-PGDS
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概要
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最近,心臓血管壁再構築プロセスにおけるPGD2/L-PGDS系の役割が注目を集めている.PGD2/L-PGDSは心臓·血管壁細胞をはじめ炎症系細胞にも存在し,炎症関連疾患の病態の進展に関係する.われわれは,PGD2/L-PGDS系が血管壁平滑筋細胞や内皮細胞の核内受容体を介してNFkB,STATやAP-1などの転写因子に影響を与え,誘導型NO,PAI-1,endothelinやVCAM産生を低下させ,血管障害性のプロセスを抑制することを明らかにしてきた.実際,各種腎障害や高血圧,糖尿病性腎症など炎症関連疾患では腎臓障害の早期からPGD2/L-PGDS系が亢進している可能性があり,尿中L-PGDS排泄量はこれら腎臓障害の予知因子として臨床的意義が高いことをみいだしてきた.尿中L-PGDS排泄量の増大は,一つには糸球体で濾過されたL-PGDSの尿細管再吸収低下と尿細管細胞におけるL-PGDSmRNA増加とによって説明される.実際,免疫組織学的には,近位尿細管でL-PGDS抗原性が証明され,ヘンレのループまたは糸球体には発現がほとんどみられない.また,正常腎では尿細管細胞よりも尿細管基底膜での抗原性が著明である.局所におけるL-PGDS産生の制御因子は明らかではないが,サイトカインなどの炎症関連因子の関与が考えられる.L-PGDS産生はPGD2産生を亢進することから,この増加は組織障害に対する適応現象と思われる.実際,PGD2およびその代謝産物を前投与しておくことで,LPSによるエンドトキシンショックから生じる肝機能障害を軽減し,血管壁NO産生を低下させ,NO産生刺激による血管弛緩反応を減弱する.PGD2/L-PGDS系のこのような作用は,炎症に関連する臓器血管障害の遺伝子治療に道を開く知見といえる.PGD2/L-PGDSの歴史は古いが,心血管系疾患の成因および治療に新たな可能性をもたらしており,まさに“Cinderella in vascular biology”といえよう.
- 2004-01-01
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