COX-2阻害薬, 腸ポリープ症抑制, そして癌の化学予防
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
化学発癌物質誘発ラットモデルを用いた実験により非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)が腸管の腫瘍細胞増殖を抑制することが示唆された.さらに大規模な疫学調査や,家族性大腸ポリープ症(FAP)患者における臨床例の報告などにより,NSAIDsが大腸癌の化学予防薬として有効であることが提唱された.NSAIDsの標的酵素はプロスタグランジン合成を行なうシクロオキシゲナーゼ(COX)である,COXには,生理機能として重要なプロスタグランジン合成に関わるCOX-1と,炎症や腫瘍組織で発現が誘導されるCOX-2のアイソフォームがある.家族性大腸ポリープ症のモデルであるApcΔ716マウスとCOX-2ノックアウトマウスを用いた遺伝学的手法による解析から,COX-2の発現誘導が腸管ポリープの発生および成長に重要な役割を果たすことが明らかとなった.続いて,COX-2選択的阻害薬がApcΔ716や他のApc変異マウスの腸管ポリープ発生を抑制することや,あるいは担癌マウスモデルでの癌細胞増殖を阻害することが数多く報告された.ポリープでのCOX-2の発現は腫瘍上皮細胞ではなく間質でのみ認められる.間質においてCOX-2依存的に産生されるプロスタグランジンがどのようにして腫瘍細胞増殖を亢進しているかについては不明な点が多い.しかし,少なくとも腫瘍組織内の血管新生を亢進していることがノックアウトマウスを用いた解析から明らかとなった.以上の研究結果は,COX-2阻害薬が腸管ポリープ発生の抑制と大腸癌の化学予防薬として有用であることを示している.また,さまざまなモデルマウスを用いた解析により,COX-2阻害薬は腸管以外の組織由来の腫瘍に対しても増殖抑制効果があることが明らかとなった.本稿では,NSAIDsやCOX-2阻害薬による腫瘍抑制効果について,これまでに報告された多くの動物実験を概説する.
- 社団法人 日本薬理学会の論文
- 2002-11-01
著者
-
武藤 誠
京都大学大学院医学研究科遺伝薬理学
-
大島 正伸
京都大学遺伝薬理学
-
大島 正伸
京大 大学院医学研究科 遺伝薬理学
-
武藤 誠
京都大学遺伝薬理学
-
大島 正伸
京都大学大学院医学研究科 遺伝薬理学
関連論文
- Lkb1欠損マウスに発生するHCCとその分子機序
- Smad4/Apcの複合変異ノックアウトと大腸癌
- ムスカリンM1およびM3受容体遺伝子欠損マウスの胃酸分泌
- SY-1-2 大腸癌リンパ節転移におけるケモカイン受容体CXCR3発現の意義(第107回日本外科学会定期学術集会)
- COX-2阻害薬, 腸ポリープ症抑制, そして癌の化学予防
- 最新創薬--薬の分子メカニズム(13)COX-2選択的阻害薬の抗腫瘍効果
- ヒト疾患の遺伝的解析からのアプローチ--発癌機構 (最先端創薬--戦略的アプローチと先端的医薬品) -- (医薬品開発のストラテジー--標的薬物発見の方法)
- 腸管腫瘍発生過程におけるCOX-2 (プロスタグランディンと病態)
- 大腸癌とシクロオキシゲナーゼ
- ノックアウトマウスを用いたSmadの異常と消化器癌 (特集 TGF-βシグナリングと癌)
- 示I-126 大腸癌におけるcyclooxygenase 2 (COX-2)の発現に関連する因子と発現部位の検討
- 家族性大腸腺腫症の直腸腺腫に対するCOX-2特異的阻害剤rofecoxibによる二重盲検比較試験
- Lkb1欠損マウスに発生するHCCとその分子機序
- 144 マウス気管筋収縮反応におけるM2,M3受容体の意義
- 音楽の要素構成構造に着目した曲断片のモーフィング
- 音楽の要素構成構造に着目した曲断片のモーフィング
- 自動採譜処理における知覚的階層に着目したパート分離処理
- 採譜支援システムにおける要素技術
- 採譜支援システムにおける要素技術
- 2000-MUS-36-5 音楽認知モデルによる感性情報抽出
- 2000-MUS-36-2 音響信号からのメロディ検索と採譜システム
- 遺伝子からみた消化器癌
- マン・マシン協調による採譜システム
- マン・マシン協調による採譜システム
- APCノックアウトマウスを用いた腸腫瘍発生と化学療法の確立
- 5G-7 音響信号の特徴量の類似性に基く楽曲からのストリーム抽出
- 5G-6 楽曲の類似性に着目した音楽情景分析
- 4G-6 音楽音響信号からの楽曲の感性的特徴の抽出
- ノックアウトマウスを用いた腸癌の形成と治療
- 家族性大腸腺腫症疾患モデルとしてのApc遺伝子ノックアウトマウス
- 大腸がんモデルマウス
- 癌細胞と骨髄由来間質細胞の相互作用
- 疾患モデル動物--病因解析での役割と限界(19)ノックアウトマウスモデルにおける腸管腫瘍発生機構
- 序文
- 転移状況にあって第三の視点を持つこと
- 治療関係以前のことを巡って思うこと (特集2 心理臨床家としての夢と展望ー21世紀に向けてどのような心理臨床家をめざすか)
- 風景構成法のアイテム選択における二つの指向性
- 平成23年度 日本医師会医学賞 マウスモデルを用いた大腸がんの研究
- SSSA-3-3 CCL15-CCRI axisによる大腸癌肝転移機序と,CCR1阻害薬による肝転移抑制への期待(SSSA Surgical Science and State of the Art,第113回日本外科学会定期学術集会)